LUDWIG VAN BEETHOVEN③ 交響曲第7番を集める。

私の興味の分析について、以前にラヴェルの『ボレロ』で試した方法が経験的に有効に違いないと、再び試みる事にした。つまり、「音源を集める」。たくさん、いろいろなものを聴けば「差異」を感じる事がある。差異を見つけられるかが最初の壁になる。区別が出来ないと「何がわからないのかわからない」状態に陥ってしまう。それは暗闇を彷徨うか路頭に迷うに等しい。

「これとあれは違う」と自分に区別出来るかどうかが勝負の分かれ目になる。幸運にも違いを認められれば、これは私の興味への探求なので、より明快な判断としてあとは唯、「より好きな方」を探せば良い。つまり、「自分のベートーベン」を探す旅になる。

・・・まさか、ここで一からクラシック音楽を勉強する方法は選べない。それを始めてしまっては三日坊主の可能性が非常に高くなる。自身の興味への探求の旅は、楽しい方が良い。その為には「より好き」を探すのが明快に違いない。

自分の見つけた唯一かもしれない「好き」を突破口にして一気に掘り下げる分析方法は、実は私の設計においても使う必殺技だ。多くの情報を集め全体への理解を深め理解するという正攻法ではなく、一点突破を狙う。ただし、間違った一点を選んでしまっては何事も得られない徒労を生み出す危険な方法でもある。どこがその一点なのか?これを選べるかが勝負。今は交響曲第7番の差異を見つける事がその一点になる。

センスとも呼べるのだけれど、求める一点は自分の感性が素直で純なら割と容易に見つけられると思う。要は、自分の好きを知る人か否かが問われる。流行りに乗ったり、誰かの言動に惑わされたり、言い訳を探したり、判断を誰かに委ねると、一点を見つけるのは不可能になってしまう。もちろん、自分の興味への素直さを得るのは簡単ではないものの、探求は楽しい発見に満ちているので、絶対に求めるべきだと思う。


経験的に、指揮者や楽団が違えば同じ曲でも違う。幾つかを聴けばそこに差異をかんじられるはずだ。今回はベートーベン全体ではなく、交響曲第7番を対象として範囲を限定する。明瞭な一点なので差異を実感出来る可能性は非常に高い。探すべきは「私の交響曲第7番」だ。発展を望むならこれを足掛かりにして広げる選択肢も広げられる。

ボレロ』同様に今回も利用させて頂くのは札幌の中央著書館の視聴覚資料の貸出しサービスだ。古いものが多いのかと思えばコレクションは更新されていて新しいものも少なくない。流石は中央図書館だろうか。閲覧はCDケースのみ、借りる際にCDと同封の解説(複製)を受け取る事が出来る。複製も丁寧で、レンタルとは違い如何にも図書館の資料らしい。輸入盤には日本語表記の案内もされている。


ところで流石ベートーベンは交響曲も協奏曲も何でもあるらしく、クラシック音楽のどの分類でも、棚という棚に数えきれないコレクションがある。250年前の人の創作が現代の、彼の活躍した舞台からはシルクロードの正反対にある片田舎の図書館の棚の多くを占有してしまっている。こんな超越した恐ろしい人が居たとは!
目指す交響曲も棚2段、第7番を収録するCDだけでも十数枚に上る。ベートーベンとは正に王道のど真ん中にある作曲家なのだと実感させられる。

正直、このど真ん中に挑んで自分の理解が及ばぬ時は、立ち直れない程に落ち込むに違いない。例えるならバッティングセンターのストレートのスローボールかもしれない。打って!という絶好球に違いないのではないだろうか。打てなかったなら?そのリスクの大きさを思えば非常に怖いので一瞬、止めようかな?なんて思いも過るけれど、折角の絶好球なので気持ち良く打ち返してみたくなる。勇気をもって挑戦をしてみよう。



分析を試みるで上げた5つのポイントで上げた②の指揮者なのか?を検証する機会になる。CDは第7番のみはなく、どれも他の曲もある上に、奏者となる楽団の違いもある。聴き込む事になるので、ベートーベンなら他も楽しめるのか?間接的には③、④、⑤の検証機会になると思われる。果たして!?

当初は仕事で出かけた際に、ついでに図書館に寄ったのだけれど、年末と年始は借りる為に訪ねてしまう勢いに至っていた。あまりに多くがあるので、選定は困ったものの、訪ねた事のあるホールや聞いた事のある楽団など縁のあるものから集め始めた。今は以下の7曲を集めた。

A:パウル・ファン・ケンペン指揮、1953年
 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ベルリン:キリスト教

B:フェレンツ・フリッチャイ指揮、1961年
 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ベルリン:キリスト教
C:ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、1983年
 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団ベルリンフィルハーモニー
D:ベルナルト・ハイティンク指揮、1986年
 コンセルヘボウ管弦楽団、コンセルトヘボウ
E:山田一雄指揮、1989年
 札幌交響楽団、厚生年金会館
F:パーヴォ・ヤルヴィ指揮、2004年
 カンマーフィルハーモニーブレーメン、スコアリング・ステージ(ベルリン)

G:グスターボ・ドゥダメル指揮、2006年
 ベネズエラシモン・ボリバル交響楽団ベネズエラ中央大学アウラ・マグナ講堂


ちなみに私の『ボレロ』を探した以前の機会ではカラヤンボレロがベストだった。いざ音源を前にすると、情報量が一気に増える。探すとか選ぶのではなく混乱してしまいそうで怖い。整理するにあたり、情報は次の4点を記す事にした。

a:指揮者
b:演奏楽団
c:録音場所(ホール)
d:録音時期

区別する際に理解を助けてくれる必要情報になると思われる。ベルリンフィルハーモニーコンサートホールやコンセルトヘボウは実際に訪ね聴いた事がある。これは自慢だ!「LUDWIG VAN BEETHOVEN⑤」に参考資料を載せています。少しでも縁があり実感のある手掛かりをは理解を助けてくれるはず。

さて、いよいよ視聴の感想を記す。全く無知で教養の無い者の戯言、あくまで私の感想に過ぎない事を前提として。


Aの指揮者ケンペンはオランダ出身で戦中のナチとの癒着を問われ、地元オランダのコンセルトヘボウでの指揮が叶わずの苦境もあったのだとか。その彼が戦後8年目にベルリンフィルを指揮し、ベルリンで録音された曲になる。そう知ったから思うのかもしれないけれど、鬼気迫る。真摯で誠実さも強烈な「重厚なウキウキ」の第7番だ。

Bのフリッチャイ指揮は非常に「堅いウキウキ」の第7番になる。緩さや余地のない厳格さを魅せる。こうあって欲しいと思うカッコ良さがあった。

A、Bはベルリンにあるキリスト教会での録音らしい。現代の録音技術なら残響のない屋外録音でも美しく作れてしまうけれど、当時のドイツはベルリンに適切なホールが無かったとしても教会はあまりに不利な録音状況ではないかと思われる。石とガラスに覆われた何時までも音が反響して鳴りやまない環境ではないのだろうか?アナログ音源をCDにする際に相当な編集が成されたのかもしれない。最も、デジタル補正の出来ない録音時は人の耳を頼りに職人的な人が作業されたのかもしれない。当時を知る上でも貴重な音源だろうに、実は私の耳は非常にクリアーで美しく響いた。ビックリだ。感銘を受けるに十分な音は素晴らしい。

Cは人気者だっただろうカラヤン指揮による、A、B同様にベルリンフィルの演奏。但し、録音はベルリンフィルハーモニーコンサートホールになる。記事⑤に記す私の好きな音楽ホールが使われている。指揮者の違いは歴然だった。テンポは速くPOPで軽快。ただ、イージーにまでは貶めず、多彩な音を賑やかに発し、それを劇的に演じているように思われた。重さはあるのに堅くはない。

Dはコンセルトヘボウ管弦楽団がコンセルトヘボウで演奏したもの。コンセルトヘボウも思い入れは強い。参考として記事⑤に記している。ハイティンクは律儀なまでに正確な人ではないかと思う。正解にして中庸、これで第7番を覚えると間違いのではないか?と思える理想の一曲に感じられた。

Eは札幌交響楽団による。録音は今は失われた厚生年金会館になる。指揮者の山田一雄は素晴らしいと思われた。札幌でベートーベンを全て果たそうと企まれていたらしい。その気迫満ちる音は、ケンペン指揮のAにも劣らぬ重厚を感じる。どうしてそこまで緊張を創り得たのだろう?札幌で、あのホールで、これ程の音楽が聴けたのかと思えば感慨深い。ただ、残念なのは録音状況だ。籠った音な上に咳払いが盛大に録音されている。その分、臨場感があるものの、キタラで録れていたならと思ってしまう。

Fの指揮者ヤルヴィはCDジェケでは厳しい横顔、厳格なドイツ音楽の現代の継承者なのかと思えば実は、堅さよりも軽さが感じられた。テンポは速く、切れ良い音は余韻よりも軽快感を生み出していた。これは比較したケンペンやフリッチャイとの比較、相対して差異を感じている。カラヤンに近いのだろうか?テンポ良く軽快と言ってしまえば簡単過ぎるものの、軽薄とは感じられない。きっとステージでは人気あるのだろうなと想像出来る。

ちなみに録音はオーケストラを録れる専用のスタジオらしい。聴ける音としては情報量は多く最も状態の優れる一曲になるのだと思う。ここまで来ると決定的な問題を抱える。聴く環境だ。適切なオーディオ環境なら区別できる事が桁違いに多くなるのだろうと思う。そこは、次の次のもっと後の選択肢だろう。聴く環境は根本の問題でキリの無い世界なので、素直に諦め、MP3再生で先ずは納得します。

Gはドゥダメル指揮のもの、図書館のコレクションにこれを見つけた時の喜びは如何ほどか?たぶん、ちょっと小躍りしてたと思う。今回の興味の切欠となった指揮者だ。これを動画ではなくCDで他の指揮者と並べて聴き比べが出来る。ベネズエラの指揮者がベネズエラの楽団で奏でたのは250年前のドイツ人の創った音楽。235年後に南米で録られ、250年後に日本の片隅で楽しんでいる。全く、不思議。

つい、長文になってしまう。

結局昨年末から年明けても毎日何度も聴いているのだけれど、集まり過ぎて聞き込みが十分ではない。書き込みは、聴きながらなのでウキウキな上、夜更けでお酒も入っている事も多々。そもそも「耳」の無い私の戯言なのだけれど・・・見事に集めた7曲は全て違っていた。寧ろ、どうしてここまで違えられるのか、誰か教えて!と思ってしまう。今なら百発百中ではないけれど、聴けばどれかを当てられそうだ。

と言う事で検証作業は進めているものの、夢中になってしまって分析が適切に出来ている気はしない。知れば知る程に情報は増えて難解になる。但し、これは私の好奇心を元にした「私のベートーベン交響曲第7番」を求める恣意的で勝手な取り組みなので、遠慮なく、ランキングを試みる。極めて、恥ずかしい告白に違いないな・・・

第一位:F・ドゥダメル
第二位:B・フィリッチャイ
第三位:D・ハイティンク

自分の聴きたい交響曲第7番はドゥダメルが1位。切欠でもあった彼の曲は印象も強烈。重厚さを損なわずに軽快、情緒を劇的に演じて魅せてくれ、心から「ウキウキ」にさせてくれる。

2位はドイツらしく?厳密で威厳があるのにも関わらず溢れる情感を魅せる、厚みのある一曲だと思う。

3位は、交響曲第7番を正確に知るにはハイティンク指揮のものを選びたい。集めた7曲の中で最も「正確」だと感じる真ん中にある貴重な一曲だと感じた。

今の私の気分なら、という条件付きランキング。結局、気分次第でカラヤンやヤルヴィも聴き楽しんでしまう。


◇記事一覧
LUDWIG VAN BEETHOVEN⑥ ここまでについて。

LUDWIG VAN BEETHOVEN⑤ 参考資料。
LUDWIG VAN BEETHOVEN④ 作家年表をつくる。
LUDWIG VAN BEETHOVEN③ 交響曲第7番を集める。
LUDWIG VAN BEETHOVEN② 先ずは分析を試みる。
LUDWIG VAN BEETHOVEN① 突如、私に訪れたベートーベン・ブーム!