【Bookshelf】その①

先日は15年目に訪ね、改めて感じた事を設計時を振り返りつつ記したい。

改まるのは恥ずかしいものの、今は訪ねる時に「自分の・・・」と言うのではなく、割と自然に建築に接する事が出来るので実はとても都合が良い。今なら設計の成果の一端を自分自身で確認が出来るように思う。

そもそもはコンペで始まる設計だった。コンペは公示から2週間で提案し、応募案から選ばれた数名が直接のプレゼンテーションを行い、一案を選ぶも形式だった。このクラアントはコンペなどせずとも適切な設計者を選べる人だった。何故なら自身の要望を的確に表現の出来る方だったからだ。

多くの場合、クライアントは何を要求するか?を悩まれるに違いない。設計者の技量とは、要望を確かにする事になる。一方、世の中には『御用聞き設計』というのもあり、実はそれが多勢でより一般的だろうと思う。要望が例えば商品的建築の範囲なら、建材メーカーのショールームで商品を選ぶ事で建築は出来上がるので、十分なケースもあるだろう。そういう完成された仕組みはあって良いと思う。けれど、そうではない要望を抱いた時はどうだろう?窯業系の外壁サイディングではない壁、無垢のフローリング、塗り壁という『質感』を要望するなら容易にその仕組みからは外れてしまう。では何故、そのような高価な材料を選択するのか?理由は欲しい。私なら、それは例えば『光』で考える。例えば、北側の高窓がもたらす優しい光を映える為に必要な壁を提案する事をこれまで何度もしてきた。質感のある素材を扱うには、間違うと逆効果を生むリスクがある。そのリスクを回避するために無理のない設計で使える普及品として建材がある。ただ、建材はそもそも商品であり、建築時がもっとも綺麗に見える材料だ。経年変化で劣化し、味わいを生み出さぬ事を前提として作られている。正しく質感を求めるための要求をカタチにする時、私の様な設計者が必要になる。

【DOMA/道南の家】ではクライアントの友人が大手ハウスメーカーで同時期に住宅を建築されていた。ご友人は大手のハウスメーカーで建築をされていたようだ。建設コストは近しいと聞いていたのだけれど、出来栄えは比較にならなかったと思う。キッチンも浴室も造作し、床は無垢のフローリングで壁は珪藻土となれば、そもそも質がまるで違い比較自体が難しい。設計で私は1年程の間従事し、施工では今も信頼を寄せる腕の良い方が現場に立って下った。

ハウスメーカーの実情は数多く建築する事で収益を上げる事。設計者が直接、クライアントに会う事はなく営業が主体となる。設計者も施工者も何件も抱える仕事の中の一つとして取り組む事になる。当然、個々に質感を求め些細なディテールを考える余裕はないので既製品がベースになる。商品建築と建築とは、とても大きな違いにある事は明白だ。その違いを理解してなら選択肢になるとして、そこに差がある事を知るから今の私が在ると言える。

【MoAi in ny】では面白い話があった。やはりクライアントの友人が同時期にハウスメーカーで建築をされていて比べる機会があったようだ。友人がショールームで床材選びを楽しまれていた頃、私のクライアントは床材を自分で塗っていた。自分で塗る?友人には何の事なのか理解を越えていたらしい。それはそうだろうと思う。建材の床材は薄い貼物の合板の床材だ。少しでも傷付けば合板下地が見えてしまう材料になる。我々が選んだ床材は無垢のフローリングで傷ついても無垢材が露わになる素材だ。これを正しく使う為には塗装が欠かせない。しかも、反りを防ぐために裏側まで塗らなければならない。どうして自分で塗るかと言えば、それは減額の為であった。塗装工賃は安くはない。ただ、将来のメンテナンスの経験と言う意味でも指導を受けて行う機会は貴重だと思う。今のオーナーは数年後にメンテを行うのに悩む事はないだろう。既に経験済みなので。選んだ床材は一生ものになる。建材の場合はどうするのだろう?多少の傷はクレヨンなどで隠す事はできるものの、やがて限界がくる。慣れに任せる事になるに違いない。

施工者選定には相当に時間を要したものの、とても良い出会いがあった。この地域で依頼をするのなら筆頭に名を上げられる方だ。正しく施工できる人を探せるか?これも設計の仕事になる。初対面では互いに挑むようにけん制しあう。この施工者はどこまで出来る?この設計者は何を求めて来る?という具合に。クライアントの要望に応える事、ここは互いに譲る事はないパートナーを得た際の心強さは掛け甲斐の無い関係を生み出せる。

話が、随分それてしまった。久しぶりに書いてみた事柄に少し熱くなった。
【Bookshelf】は既に住まわれて久しい住宅なので、プライバシーも考慮し詳細を記す事は避けます。長くなったので、そのから話をはじめよう。