星夜の唸り声。

最近は朝ドラを観ているからというわけでなく、天気予報が気になる。失われた出歩く機会を寒くなる前に取り返したく、晴れを狙ってこの夜は久しぶりの支笏へ星を撮りに行く。本当はそのまま海まで行くつもりだったのだけれど、予報に反して苫小牧は既に厚い雲に覆われていて断念したのだけれど。

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支笏湖を見通せる高台での撮影。実の所、星は滅多に撮らないのでカメラをどう設定して良いのか分からない。なので、いつも幾つも設定を試す。ISO感度を低く抑えたいのはノイズが怖いから、しかし低感度にすると露光時間は長いので地球が回ってしまう。30秒露光すると地球は結構な勢いで回っているので、写真では星が点ではなく線になってしまう。ISO感度を高くしたり、絞りを開放側にしてシャッタースピードを早めたり・・・自分にとって調子の良い設定を模索する。

しばしば建築を夜に撮る事がある。考え無しにでは絞って長時間露光を試みてしまうのだけれど、長く開けると光を多く取り込み過ぎてしまうことがある。夜の写真はなかなか難しい。

難しい事のもう一つは、例えばこの写真を撮っている場所は真暗である。肉眼では湖面がまるで見えない。苫小牧の街の灯が厚く低く垂れこめる雲に映えて明るい。その他は支笏湖畔のホテルやキャンプ場の灯りが点々と見える程度。夜も深い時間帯なので自動車のライトも殆ど見られない。けれどカメラの眼は優秀で、色々なものをきっちり写していた。湖面明るさは、雲が苫小牧の街の灯を反射して落した明かりを映えているのだと思う。風は早く、着いた時は空に星が見えていたのに、シャッターを押すころには湖上には雲があり、駒ヶ岳の上に僅かに星が見えている。写真左手低い空にオリオン座が居るはずであった。

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暗がりを取り合えず撮りながら、撮った写真を確認して何を撮っているのかを知り、どう撮ろうか等と考え縦位置で撮影した一枚。写真中央に映っている星の密集はスバル、プレアデス散開星団だ。

既に枯葉が路上にも散っていて、木々も水は少なくカラカラと、強い風もあって周囲が実に騒々しい夜だった。撮影のためにライトを落とすと、真暗な世界であちこちから音がする。いつもは気にしないのだけれど、何かどうも気になる夜だった。鹿は季節なのか旺盛であちこちで出会ったのだけれど、撮影の合間には一々周囲を照らして確認しつつ過ごしていた。

この場所のすぐ向こうは崖下に道路が走っていて、その奥やや遠くに湖がある。この写真を撮った直後にその崖下の道路側をライトで照らした時だった。二つの眼らしきが見えたのは。それが何かを確認する余裕はまるで無かったのは、地響きのような唸り声を聞いてしまったからだった。

鹿の甲高い声?キツネの様な軽い小動物の?・・・十分な肺活量の持ち主で地面が震えるような重量級の低音の、周囲を震えさせる音量で発せられる唸り声・・・高価なカメラを立てた三脚の上に取り付けたまま車まで走ったー

自分の勘違いなのかもしれないけれど、ネットで目撃情報を調べると千歳管内は地図付きで案内されていて、支笏湖はメッカに違いない。そりゃ、居るよね。車を降りる時に数度クラクションを鳴らしてはいたんだよ、念のためにと。お邪魔しているのは私の方なので唸られれば退散するけれど、しかしコレは結構なトラウマだ。あれが唸り声なら明らかに向けられていたのは私であって、しばらくあそこへは行けないな。