石材

石は建築材料でもあり、古くから材料として活躍している。地震がなく地盤を岩盤が基本となる地域では組積造の主材料として石は使われている。例えばヨーロッパの多くの地域では石積みの建築が数多くある。地震の多い日本では組積造の建築や構造物は基本的に造る事が出来ない。補強されていなければブロック塀も容易に倒壊してしまう。

軟石で作られた倉庫はそれでもチラホラと残っていて見る事が出来る。地盤の良い場所に作られていたのだろう。それを利用してとなれば鉄骨等で補強する事になる。

通常は石材は仕上材として使うのが一般的になる。ただし、石は非常に重い。薄く加工されたものを張る事はそう珍しくはないのだけれど、尚且つとても高価な材料なので、実のところ滅多に使う機会が無い!

石の重さは質感に結びつき、これは捨て難い。高級感を得るには適切でもあるし、何よりテクスチャーはやはり自然の風合いで好ましい。どう納めるか、目地をどう処理するかで更に表情を豊かにする事が出来る。

私の場合は、マンションのエントランスのデザインでしばしば使う機会があった。床にではなく壁面に。石器の事を書いたので思い出した。少し案内しておこう。


札幌ファクトリーの横に立つマンション【clio N1E5】は、エントランスにコストを掛ける事が出来たので、この時は思い切り石を使う事が出来た。その現場風景を・・・

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通常の建築材料とは重さがまるで違う上に天然素材、現場風景は石切り場風の迫力が漂う。この内の数枚が足に倒れただけで、安全靴でもなければ怪我をしてしまう。

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石は薄く加工したものなら使う機会は増えるものの、この設計では厚みのある、つまり重い石を高所まで設置した。重さ故に「張る」事が出来ないので金具を使い固定する事になる。これは金具固定用の穴加工された石材の小口部分。滅多に見る事の出来ない工種になるだろうと思う。ホテルやマンションでもコストの掛けられる現場でなければ、ここまでは使えないな。図面に描いても見積調整で消えてしまいそう。

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コンクリートの躯体の外部表層に固定された仕上石材。粗く仕上げた御影石と磨いた御影石を組み合わせ仕上げた。

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石材選定時にはたくさんのサンプルを集めたのだけれど、余りに重くて持ち運びが大変であった。持ち歩く度に汗をかく程だったし、持ち上げる時に間違うと腰に来るほどだった。

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主たる外装に用いたのは御影石、どう見せようか思案の末に高価な石種ではなく、人の手間を掛け質感を上げるべく、中では安価な御影石を粗く叩いた仕上とした。コストを手間に当て質感を得る。サンプルを作り、それを外に置いて何度も眺め確認をした。

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その表層を。叩けるというのは想像を超える仕上方、厚さが無ければできない仕上だ。

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現場で組まれた石材、目地や角の仕口は厚みのある石材故に出来るもの。そこに量塊たる重さが現れ質感を伴う事が出来る。実際に眺めたなら薄く奇麗な仕上とはまるで違う事が実感させられる。

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室内にも石材は使っていて、磨いた御影石や割肌の大理石を使っている。目地は眠り目地、石は使っても室内はより人に近い空間、荒々しく重さをではなく別種の質感とした。

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竣工直後のエントランス風景。同じ御影石でも粗く仕上げたテクスチャーと磨いた面では光の映え方がまるで違う。石はどちらにも表情を変える事ができる不思議な素材だ。

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エントランスの別角度。照明に照らされた時は粗く仕上げた面の大きな凹凸が陰影を作り表情の豊かさを魅せてくれる。他の材料では得難い重量感は同時にとても誠実なもので、改めて良いなーと実感する。

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館銘板も石で作ってしまった。

なかなか、石を存分に使う機会はないので、それは今は一般的にそうでもあり、現場監督は若い社員に現場見学をさせていたとか。金物を使って高所まで石を設置する現場はそう多くな無いのも事実。使ってみたい納まりが幾つかあるので、次の機会は無いか?温めておきたい。