本:エルクロッキー

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ELcroquis、エルクロッキーはスペインの建築書籍で昔からお世話になっている。高価な本なので容易に手に出来ないけれど、出会った時は何時も大いに悩んで手にする。訪ねて来た何時もの本の行商が、良い本がありますとやってきた。4冊あって、一つが先に記したリートフェルトシュレーダー邸、それにA.MAGに良質な住宅作品集とこの一冊。

正直、この本を手にしても何の参考にもならないなーとは思った。思ったけれど、とても興味深く面白い本だった。エルクロッキーは建築雑誌なのだけれど取り組みは誠実で、一人の建築家を丁寧に観察し記してくれる。写真の質は綺麗なだけでなく一貫して誠実なものが並ぶ。

スイスの建築家が特集されているのだけれど、住宅のみならず公共施設や景勝地の展望台、宿泊施設、それに牛舎とチーズ工場と言った具合。景観はアルプスの少女が住んでいる場所かな?という田舎の風景の中ばかり。

広葉樹が紅葉するのではなく、常緑針葉樹が常にあり、背景はアルプス?の峯がある。大陸と大陸がぶつかりせり上がった岩盤がギザギザに折れる壮大な山岳がその背景だ。それしか無いのだけれど、圧倒的な景観に支配された中で繰り広げられる人の生活を舞台にして建築がある。

本州でなら町は大抵、山の麓に広がる。山に降った雨雪の水が湧き田畑となり、その水が生活の礎となり場所が出来る具合。北海道はもう少し、人の寄れない厳しさはあるものの、大陸に広がる地球を感じさせる景観となればやや違う。十勝から眺める大雪山系とも違う。あの景観の中で果たして設計は出来るのだろうか?

あるゲストハウスの事例には思わず悩んだ。敷地は町の郊外の静かな恵まれた丘陵地、隣り合うのは古い教会建築だ。背景には巨大な岩山、周囲は針葉樹に覆わ、敷地には草地が広がる。絵に描いたような恵まれた景観に見える。ただし、ではそこで何が設計できるだろう?と考えると恐怖しか覚えない。白くて綺麗な建築では圧し潰されるだけ、軽やかな佇まいも恐らくは通用しない厳しい環境でもある。今ある自分の設計環境は実は、人に近く穏やかで変化を抑えた環境にあるのではないかと思えた。

綺麗な写真を撮るだけの建築は出来ても、景観に耐え末永い建築を求めるなら?悩むだろうな。実際、角ログハウスのような強烈に強い建築、日本の軸組工法の細い柱ではなく、石を積み上げたかの様な巨大な柱で作られるインテリア、どれもこれも直接の参考にはなり得ないのが手にした理由かもしれない。場所に相応しい建築を求めた或る人の取り組みの事実のみが記された本だった。

本の行商は商売人ですし、良い本があれば持って来てくれるけれど、いつも突然なのだ。どうして高価な本を突然に買ってしまうのか。本は出会いなので、逃せば機会は失われてしまう。緊張感はヒシヒシ。まんまと商売に乗せられただけなのだけれど、良い本を少なくとも棚に飾れるので良しとするかな。