カテドラル その① 【 ウェストミンスター大聖堂 】


ウェストミンスター大聖堂 (Westminster Cathedral)』
女王様の葬儀が行われたウエストミンスターの教会、割と新しく質素な教会で行われるのかと思えば、それは『ウェストミンスター寺院』の方であった。なんとも紛らわしい。

こちらはビザンチン様式とされる近世に建てられたカテドラルで、とても印象的だった。「ウエストミンスター」と聞き思い出したので、記したいと思う。

欧州を旅した時の事、この教会に辿り着くまでに既に欧州各地の教会を見ていた。石積み(組積造)の巨大な建築であるカテドラルはその町の風景であり、精神的な支柱であり、観光地でもある意味深い建築に違いない。ロンドンには大小数多くの教会が当然ながらあったのだけれど、その中でも特異な存在だったと思う。お金が集められずに仕上がっていないとも聞く。この大きさにも関わらずゴシック様式ではなく、ロマネスクの教会を思わせる。厚い壁と円形アーチのヴォールト、小さな窓。質素であるが故に空間の骨格が引き立ち、余計に力強く思われ、その空間の迫力に圧倒された。

組積造の建築の順を追えば、石を高く積めば倒壊の恐れは免れない。地震のある日本ではそもそも成立しない構造になる。例えばブロック塀でも鉄筋は入れるし高さは低く制限される。そもそも火山の多い日本では噴出体積物で地表は覆われ重い建築を支えられる場所は限定される。対して欧州は岩盤質の大陸で地震は少ない。その岩盤を切り取り「石」として積み上げる文化が発展した。建築するという大規模な行為は適材適所で行われるのだと思う。

石を積むのは間違いない建築行為で高くも積める。積み木を積む具合と同じだ。そこが神様の住いなら窓のない建築でも良い。そこに人が居るのなら「窓」は欲しい。高く積んだ上に窓となる「開口」を設けるのはとても難しい。

組積造の巨大な建築で初めて?開口を開けたのはパンテオン、空ける事が出来た窓は頂上のみであった。ようやく窓を安定して設ける事が出来たのがロマネスクの教会、設けた開口部は実に小さく、室内は暗い。窓はグレアを起こす印象的な空間だ。組積の構造理解が進むと、やがてヴォールトといいアーチの構造を人は開発した。倒壊しないだけ十分に厚い壁ではなく、柱で空間を支える構造様式の教会をゴシックと呼ぶ。屋根を木造とするなら、それは軽く構造に負担は欠けないものの、天井までを石で積み上げるのは難題だ。現存する組積造の建物は正解案だったに違いない。間違ったものは倒壊して今は無いのだろう。

ゴシックの教会は華麗な美しさがある。大きな開口部にはバラ窓やステンドグラスが嵌り、天井は美しく織られたようなヴォールトがある。それら複雑な重量物や構造負荷を支える為にバットレスといい外部に斜めの梁が取り付き本体構造を支える様が一層引き立てる。後期のゴシック建築鉄骨造かと思わせる程にスレンダーで華麗だ。鉄骨の登場時には、組積の構造理解があればこそ鉄の性質を見極め適所に使う事が出来たに違いない。間違えば、石を積む様に鉄を積み上がていただろうし。ちなみに、ログハウスも組積造と考える。日本では特殊な構造計算でもしない限り1階建てとなる(屋根は別)。石積みの文化を持つ人が、木資源の多い場所で開発した構造だろうか。

不思議なのは、構造理解で言えばロマネスク様式に対してゴシック様式は後発なのに、どちらの構造も共存し長く使われていたようだ。ウェストミンスター大聖堂はロマネスク的空間を持つ。けれど建設時は1800年代後半と極めて近代の建築だ。当時既に大都市だったロンドンにおいて、この教会を求めた人達の意思は強い空間を求めた。直ぐ近くにはウェストミンスター寺院があり、例えばヨーク市にあるヨークミンスター大聖堂などイギリスにもゴシック教会の傑作が数多くあるにも関わらず、古めかしく質素で、けれど力強い空間を求めた時の意思を、訪ね空間を体感すれば想う事が出来る。

ロットリングのアートペンでスケッチを続けた欧州の旅、大小300枚を描いている。中途からグワッシュの絵具を使い始めもした。「線」で描く事が常だったのに、何故かこの教会は塗りたくなったらしい。ロンドンの夜はB&Bかユースの安宿で過ごしていたはず、暗い照明の下で夜に塗ったのだと思う、このスケッチ。

後年、広島で観た村野藤吾設計による「世界平和記念聖堂」、1954年竣工は敗戦後10年に満たない上に広島で行われた建築だ。平和を願う空間をどう設えるか?その空間の強さはそのまま平和への願いと思われた。村野さんがウエストミンスター大聖堂を知っていたかは分からないけれど、同じ空気を感じた。


■記事一覧
カテドラル その① 【 ウェストミンスター大聖堂 】
カテドラル その② 「カテドラル」デビット・マコーレイ作 岩浪出版 
カテドラル その③ 【 キングス・カレッジ・チャペル 】
カテドラル その④ 【 ノートルダム大聖堂 】
カテドラル その⑤ 【 ケルン大聖堂 】
カテドラル その⑥ 【 サグラダ・ファミリア 】