空間を科学する・・・【Bookshelf】の庭

「科学する」と書けばやや仰々しいけれど考察は設計に欠かせない。もともと正解のない「空間」をどう把握するか?指標らしきはある。

読み返していた古い本、芦原義信さんの「街並みの美学」(岩波書店)は学生時代にお世話になった一冊だ。随分と影響を受け、後に敷地を訪ねたり建築を見に行く際に参考としている。この本は最初にある指標を使って街並みを科学的している。それは、建物の高さ(H)と前面空地の奥行き(D)の関係だ。レオナルド・ダ・ヴィンチはD/H=1を理想としていたとか。

ここでは【Bookshelf】の庭を使い図解を試みたい。先日は焚火会で訪ねたこの住宅、庭で過ごすのがとても楽しい。あの居心地の良さは何故だろう?改めて考えたい。


①【Bookshelf】の外構断面図。
図面左が建築、右は隣地建物、大きな木のある植栽、中央が「庭」。


②一般的な2階建ての住宅なら?
【Bookshelf】の建物を一般的な住宅に置き換えて庭を眺めてみる。


①と②の違いを理解頂けるだろうか?
・・・難しい?
建築を「デザイン」すると、ついモノをデザインしてしまう。庭から見るなら、外壁をデザインするかもしれない。けれど、建築の設計の肝は「空間」をデザインする事に他ならない。「心地良い庭」を設計するなら当然、「庭空間」をデザインしなければならない。

確認する上で視点を変えよう。では・・・


④【Bookshelf】の「庭」


⑤一般的な住宅の「庭」

白黒を反転視点を変えると分り易い。庭を考えるなら、デザインするべきは外部空間になる。

60坪規模の【Bookshelf】は庭との親和性を考えヴォリュームを低く抑えている。対して一般的な住宅は横架材間(柱)高さ2.9m、天井高2.4mを標準とするので比べると高さは1.5倍程になるだろうか。天井高を高くすれば更に建築は高くなる。

背の高い建築に囲まれる⑤の状況は、まるで「谷間の底」のようだ。④に比べると建物は威圧的で圧迫感も感じるだろう。ここに居る事は果たして心地良いのか?


③HとDの関係
高さ(H)と奥行き(D)とはこのような関係。




⑥【Bookshelf】の庭空間《D/H=1》


⑦一般的な住宅での庭《D/H=0.67》

中央の黄色が「庭空間」。⑥はD/H =1とダヴィンチ好み。⑦のD/H=0.67だ。敷地に合わせ出来るだけ庭の奥行きを確保した【Bookshelf】は細く長い。一般的な住宅ならもっと庭に迫るので数値は更に小さくなる。平面を眺めるなら十分な広さにみえても、実際の空間が理想とはかけ離れる事は多い。

これら図解を眺め気付くもう一つは、人が大きく見えるか小さく見えるかではないだろうか。これは相対的な判断になるのだけれどD/Hの関係とも相まう。

検証として、得意のアルテピアッツァ美唄の彫刻で比べて見よう。

⑧丘の上の門型彫刻を【Bookshelf】の庭に置く。



⑨同じく標準的な住宅に門型彫刻を置く。

さて、どう見えるだろう?彫刻は、⑧では大きく見えるのに⑨では小さく見える。彫刻は高さ4m、幅2.5m程の大きさ、アルテピアッツァ美唄で眺めると子供の居る風景が実に良い大きさだ。綺麗に見える幼稚園や保育園の建築が立派過ぎて子供が小さく見える事がある。主役はどっち?と疑わしい。

可愛らしいお菓子の家を造るなら?⑥のスケール感で⑨の効果を得るよう考える。立派な彫像を置くのなら⑧の効果を考えるだろう。間違うとお菓子の家は巨大で怖く、立派な彫像は貧相に見えてしまう。写真ではどうにか出来ても現実には免れない。

「D/H」は指標、⑧と⑨はスケール感の問になるのだけれど設計ではどちらの検証も必要だ。⑧のスケール感を維持しつつ、⑥の解放感を達成出来れば、庭空間に心地良さを導けるかもしれない。外してしまうと手品か魔術を使っても達成は困難になってしまう。出来ている事を条件として、設計は更に先み、外壁をデザインするのはその後になる。


庭をどう使う?という設計命題を前に何をどうデザインするか?住宅設計では常に考え、最適な空間を求めたい。


以下にスケール感の検証リンクを。
■【MoAi in ny】の検証!
■【 DOMA/NATORI 】
■【DOMA/Hakodate 】
■【 DOMA/Yamanote 】
■【 DOMA/道南(South Hokkaido) 】
■【 Bookshelf 】
■【 Compact house 考 】
■【 一般的な住宅との比較 】
■【 佛願寺 】
■【 光明寺 】