N123教授室を目指す・・・【2023年春の縄文探検】

縄文探検、初めて小幌の洞窟探検をしたのは11年前になる。以来毎年、『探検』と称して友人等と何処かへ行く。これまでに10回以上は計画をし、都度参加者は6~8名だろうか。一度も外した探検はなかったと思う。相当に頑張っているし。

今年は悩み抜いた末に地下鉄で移動できる範囲の札幌市内と決め、実行した。表題の「縄文」要素は乏しいのだけれど、この言葉を残すのには意味がある。温故知新、嘗て北海道に住んだ人の見た世界、選び抜いた生活環境、そこで生み出された文化を感じる事はやはり欠かせない。

3年前には十勝でトーチカを見た。昨年は野幌で強く開拓期を振り返る探検だった。今回は北海道という寒冷地の『雪』、除雪など害が表に出易いく、レジャーはそこそ、そもそも「雪」とは?そこから見える世界を正しく知る事を選んで探検を試みる。

トーチカだけを眺めると「廃墟」と捉え趣味に出来るかもしれない。けれど、それを誰がどう造ったのか?その目的を考え知り想像すれば、一気に当時の北海道の生活を偲ぶ事が出来る。野幌の開拓の村で見る建築も、綺麗に保存された光景のみを眺めたなら懐古的に楽しめるかもしれない。けれど、そこに実際の「生活」があった事を想像すれば、同じ北海道でこの仕様なら冬の厳しさは想像に絶し、雪融けの春の暖かさを実感するのは想像は容易い。実は50年も遡ることなく、それらと近しい生活の在ったのを知っている。

先にあった事実を知る事は「探検」に違いない。そういう企画を毎年試み、友人等を巻き込む事で他者の意見や感想を知り客観する、とても有意義な機会だ。本当は今回、国宝となった愛すべき白滝の黒曜石を見に行きたいと考えていたのだけれど、道東に踏み入るのなら重要文化財となった常呂の遺跡や網走まで・・・2泊3日は必要なので探検隊員の都合調整が困難ですし・・・取り合えず温めておこう。


今回の探検は北大博物館と北大植物園。企んでいた清華亭は前日から改修、道庁は改修中、時計台は混み合うGWに?植物園は当日開園とスケジュールは実はギリギリとなっていた。


北大博物館は「教授室N123」を目指す。旧理学部本館の入口から「北側をN」、次の番号は「階」、そして「室番の23」を組み合わせた『N123』の室とは、「雪の結晶」の研究で知られた中谷宇吉郎研究室だ。写真はアインシュタインドームかな?


博物館となっている今、順路からは外れているものの整えられていて見学は可能らしい。研究室を展示室としている。この展示に主体的に携われた方は北大に残された研究資料にも携わられている。山崎さん、何度かお会いしてお話をお聞きする機会があった。展示室の計画過程も知っていたので、訪ねるのなら是非、案内を頂けないものかと考えていた。今回は6名の探検参加者にてお願いし、快く案内を頂けた。


正直を言えば「何処まで果たされているのか?」は知らなかった。期待はあった。そして、それは本当に見事で驚かされた。中谷宇吉郎の書籍は自身でも集められ、おそらくは論文の類を含め熟読熟知されている。それは研究者としての節度までを解説頂けたのだと思う。大雑把には・・・という話は一切なく、素朴で時にバカみたいな質問にも丁寧に言葉を選んで解説下さった。言い足りず、言い過ぎすのバランスは明らかに最適の様には本当に驚かされ、感激させられる。

結晶写真について問えば、付箋も貼られていない本を取り出して即座に核心のページを開き「一光源二色照明法」が解説された。


中谷宇吉郎」の名は知られているのだと思う。私は2014年の札幌国際芸術祭にて近代美術館での人工雪を見て初めて実感させられた。彼は雪の結晶を求めて4年程の間、十勝の山の中へ通ったらしい。そこで眺めた自然雪に対し、低温実験室で人口再現を試み、その成果をダイヤグラムとして示している。


山崎さんは研究者ではないけれど、これが何かを説明解説出来る程の見識があるはず。図版として秩序ある具合は明らかで、何を意味するのか私にはわからないけれど、見事な仕事の成果である事は疑えない。


人工雪の生成機器はこの図面になる。


「結晶」という事で博物館の展示順路では「鉱物」のコーナーに配置された人工雪生成器具がこれになる。最下部に熱線があり水蒸気を作り、上部にウサギ?の毛を吊るし、そこで結晶が作られる仕組みだ。

探検隊参加者談によると、以前はガラスは熱して自分で加工を加えて器具を作っていたらしい。この器具、試行錯誤の際は自分であれこれ加工されていたのかもしれない。完成形は器具業者に加工させていたのかもしれないけれど、全くのオリジナル製品。

「理論物理」に対する「実験物理」は、様々を要する。実験物理の最たるものは、例えばニュートリノ研究のカミオカンデ等になる。あれは、果てしない規模と精度、時間。

自然雪の結晶は眺めるのが面白く、過去に何度かブログに撮った写真を掲載した。ただ、学術的に比較検討するには「標準化」しなければ考察が出来ない。その難しさを越えて自身で結晶を生成し、それをダイヤグラムにするまでとなれば、そこはやはり、好きだけでなく、趣味でもないく、正に「研究者」だ。感情ではなく「事実」として受け入れられ眺める事が出来る事の素晴らしさ。




実際の雪の結晶は「ガラス活版写真」で撮られている。そういえば函館の元町にある旧写真で見た覚えがある。ガラスに感光液を塗布してだったろうか。このサイズで撮れるという事は、今では想像も出来ないカメラで悪戦苦闘したのだろう。何より、比較出来るだけ十分な撮影環境と仕様を探す事に労したに違いない。

例えば、私が写真を撮ろうとして、何とか拾った綺麗な結晶も、極めてカメラは近寄るので、夢中になって息をすると融けてしまったりする。



後に整理された自然雪の図版はコレだけれど・・・


研究発表をまとめた書籍で使われた当時の図版はコレになる。「Snow Crystals」の原稿だ。何て素敵な本のタイトルだろう!

実は中谷宇吉郎の資料の殆どは故郷の故郷の雪の科学館と東京の実家に送られていて、北大には多くは残されていないのだそうだ。写真は世界に名を知らしめた書籍に使われた図版は残された資料を整理され、今はこの展示室で観る事が出来る。

今の自分は基本的に全てデジタル化して保存をしている。当然、加工もデジタルだ。けれど例えば学生時代は、図面は手描きで、そこにワープロ打ちのタイトルを貼ったりした。A3なり図版に整理する際はそれを縮小コピーしたのだけれど、同じ過程だ。デジタル図版に対してとても実感の籠る手の作業、眺める価値がある。


これもSnow Crystals」の原稿。


これは水墨!後にこのように芸術的に整理もされていたらしい。結晶をアートとして紹介できる人でもあったらしい。故に芸術祭での展示となったのだろう。


歪ながらも結晶の詳細なガラス活版写真、これが最初の一枚なのだそうだ。記念碑的に額に収められたこの写真、何かの始まりを確信した瞬間が写る様で、目の当たりにして興奮させられた。


奥にあるのはスノーボードのような特注オリジナルの「加賀スキー」だ。加賀?知っている人は「おお!」となるらしい。写真左下は即座に開かれた本の挿絵、このスキー板に実験装置を備え雪山を登山する写真だ。


N123研究室は当時の机等も再現さえている。照明や棚類の中で鉛筆削りが誇らしい。手元の道具は筆記具のみ!という中、資料を集めようにも先人は乏しいとなれば、自身の勢いか想い、好奇心しか術がない。今の自分では想像も出来ないけれど、学生時代なら似た環境だったのかもしれない。Chat GPTどころかPCも無し。生み出すものの全てを自ら手掛けなければならなかった。

諦めたくなり、その理由を探すのに困る事は無かったはず。同時に、挑めば何でも出来た時代だろうか。十勝の山小屋に通い、外にカメラか顕微鏡を据えて雪を拾ってきては眺め研究し、それを「成果」と呼べるまでに秩序を与える。殆ど「冒険」に近い。


「雪は天から送られた手紙である。」と話されたらしい。地表へはどう届くのだろう?札幌は実証に都合が良い街だったようだ。開拓期の都市区画は当時に測量方法の上限を基にしている。大区画だったろうか、確か540mは北海道の町では共通だ。これを基にして碁盤目が形成され、開拓期入植の際は土地を分配している。その痕跡は今は南条何丁目で確実に残されている。その碁盤が都合良い。架空のグリッドを想定するのではなく、実際に大地がグリッドに切られている。そこで研究室の人が提案し実現したのが、コレ。雪の結晶を図版にして使う乳製品メーカーをスポンサーにして、この紙切れを上空から巻いたらしい。この紙切れを拾った市民は何条何丁目かを記して届け・・・大きな袋3つ分だったろうか、集められたらしい。その成果がどのようなものだったのかは分からないけれど、一大イベントだったに違いない。

日々の空模様でどう舞うかマチマチ、今ならスーパーコンピューターでシミュレーションする方が確実だろうけれど、そこは実験物理の核心、出来る事をした!のだろう。

残った紙切れは今も保管されていて、それはとっても心躍る代物だった。



北大博物館を以前に訪ねたの随分以前の事になる。今の展示は随分様変わりしていた。当時はコレクションの羅列された具合で、学ぶには悩ましい具合だった。今も、研究分野別発表展示に違いなく、開拓記念館(現北海道博物館)で見る様な具合とは違うように思われるけれど・・・1階には軽食のみならずお酒も飲める場所もあるし、一日歩き回って楽しむ事が出来る。改めて訪ねたい。


興味を失えば30分でパラパラと見学を終えてしまえるだろうか、この日は1時間半を足早に案内頂いた。多くは狭いN123研究室にて。市販されていない整理資料本を頂いたのだけれど、改めて眺めると写真入り図解を含め、全ての資料に番号が振られ完璧に整理されているように見える。山崎さんとは幸運にも出会えたのだけれど、こうして機会を設け案内頂けた事は誠に幸いだった。こんな有意義な時間を得る事が出来るとは。

中谷宇吉郎の研究成果は例えば「凍上」もあり、知らずに設計で常識として使っている。「結晶」の神秘、仕組みを解き明かすなかで「水」の状態変化を通じて得られる事を知らしめ、その仕組みから実生活において欠かせない事実が今は当然のように使われている。けれど、それは実は割と最近の事であり、誰かが懸命に取り組み得た成果を基にしていた。北海道にある環境、冬には常に目の当たりにする雪、見事な成果とそれを確かに案内して下さる方があった。感心しきりの一日は久しぶりに打ちのめされる程の楽しさに溢れていた。心から感謝。