とあるS造(鉄骨造)の下屋建築。


四半世紀前になる。当時のデジタルカメラは昔のガラケーのカメラ程度、おそらく30万画素しかなかった。フィルムで竣工写真を撮らなかったので案合出来る写真がない!けれど、Googleの航空写真では存在しているので、今も健在だ。

とある社屋、気を配られたデザインの建築の増築を担った。お餅のような柔らかいステンレス製の屋根が二つある社屋、ところが小屋裏は大きく室内の熱が逃げ留まるらしく勝手口にツララが出来ると困られていた。

建築増築相談での対策は勝手口の下屋建築とツララ対策。ツララは屋根上に積もってしまう雪を溶かしてしまうから、先ずは換気扇を設け熱排出を施した。加えて温度湿度計を設置する。状況が分かれば原因と対策により近づける。

そして、現実に問題のツララを避けるための下屋建築を増築した。建築自体は雨風ツララ除けの庇があれば良い建築。小さく簡単な建築が実は極めて難しい。

ココで案内出来るのは当時製作したパースのみ。これは実施設計前後で制作した竣工予想パース。当時はコレを制作するのも四苦八苦する仕事だった。思えば、拙くともこの時からパースを設計ツールとしていた。健気だなーと我ながら思う。今ならもっと見せられるプレゼンテーションが出来るのだけれど、労多い設計は正直、楽しい。楽しかったので、拙くとも敢て紹介したい。


果てさて、自分の設計した建築ではない建築への増築設計は寧ろ気合が入る。自身の設計なら勝手を知った全て、何をすべきかを提案出来る。他者の行った気持ちのある建築では理解から始める事は欠かせない。その理解が正しいのかどうか?四半世紀も残っている事実を思えば、幾多の審判を受けているに違いない。ガッカリされないだけ十分な成果を探し・・・以下に当時、製作した提案パースをズラズラと並べる。



駐車場からは丘陵上に立つ建築、登り口から勝手口までを覆う屋根のある簡素な建築が求められた。雪が雪崩混む事も考慮し、強固にS造(鉄骨造)を考える。高みからは遠くまで見通せる環境、壁で囲うのではなく開放的で何かしらを阻害しないように柱と梁で構成出来るラーメン構造で検討をする。

H鋼を使う。。。。筋交いが必要そうなデザインだけれど。何より、工場で制作して運べるサイズではないので、現場溶接でもしない限り接手はボルト接合となりゴツイ工場?的に成りかねない。けれど、こうスッキリと出来れば気持ち良い。


梁を現しにすれば溶接という難解な仕事を求める事もあり、構造に影響されないデザインをと屋根を考える。雪や雨を流せる勾配を備えた、シンプルな屋根。けれど、作り易く直線的にすると既存の曲面屋根とはぶつかる。


少し可愛らしく切妻の構造を考えた。これはこれでマッチする。けれど感じな事に勝手口に向けて雨が落ちてしまう。そこに小屋根を設け始めると一気に複雑な屋根になってしまう。


屋根を丘陵に沿うよう地形に沿うアイディア。既存の丸味のある屋根では無く大地へ呼応する。でも、ちょっと複雑になってしまうか?


そこで考えたのが楕円の屋根。既存建築に呼応する形態は何にも触れずに独立する上に、違和感を感じないものだった。それでいて存在感もある。決定案でもある。あれこれと提示が出来たのでクライアントも楽しまれたと記憶している。御一緒に悩み様々を話し合えたと記憶している。


ちなみに壁で覆う案。これなら木造でも可能。ただ、解放感は失われ、とても重々しい。勝手口は裏手、室外機も並ぶ場所ではあるけれど実スペースは狭く、閉鎖的にしては気が重くなりそうに思われた。


既存屋根の雪を排除する事に特化した屋根も、直線的だと何か触れて違和感を覚える。


コルゲート鋼を!囲うにしてもこれなら面白そうに思えた。上手に設計し施工出来ればコストを抑えられるかもしれない。けれど間違えば手間が予想を越す。私の中では二番手の提案だった。


パースの柱はやや細いかもしれない。雪の少ない地域なのでOKかもしれない。なにせ竣工写真がないので・・・設計したのがコレだ!

特殊なラーメン構造とは、柱と梁と地面がその接点で剛接合といい、回転しない強固な堅い結合の構法の事を言う。その武骨な梁を隠すのに、やや分厚くなった屋根を軽くスタイリッシュに見せたく、破風部分はシルバーとホワイトを塗分けた。実際は勾配と逆傾斜で塗分けたので面白かった。照明は吊り下げ式のスポットを使い軒下天井面を照らす。駐車場からは楕円の丸が宙に浮かんで見える。

コストを踏まえたデザインは要望に応える機能を有しつつ、元から在ったように景観に溶け込み違和感を抑え、設計から具現までを楽しむ機会だった。今もあるのが嬉しい。近所へ行く際は確かめに行きたい。電気の盤や除雪器具が並ぶ風景はリアルだな。既存建築側には壁を設け、裏方な部分を隠すのも一考だったと今は思う。

既存建築に接して増築するとなれば設計は一気に難解になるし、勝手口と考えると勝手が優先するので様々を考慮すると、駐車場からは見えず、ココに立つのは職員だけ、許される条件であったと思う。それらは全て、私が現地調査の際に得た必要条件になる。具現できたのは、その条件をクリアする内容だったからだ。しかし正しくは、それらに取り組むのが楽しかったから。私だけでなくクライアントも、実はこの時は施工者は既知の匠、30万画素の現場写真を今確認しても笑顔だった。小僧のお前が必至なら、徹底して付き合い果たしてやる!とばかりの、あの笑顔は他に代え難い。

設計は面白い。そこで出会った人達と一緒に創る楽しさ、改めて思い出す。


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