建築視察


建築を探訪する番組で案内されていたのは古い建築だった。旧千代田生命本社ビルで今は目黒区役所となっている。私はこの建築がとても好きで2度訪ねた事がある。写真は10年程前のもの、今は区役所なので平日であれば訪ねる事が出来る。

初めて訪ねたのは学生時代だったろうか、あらかじめ連絡し案内をして頂いた。担当は広報部の方だったろうか、数多くの方が建築を見に来られるのが不思議で、建築は知らないものの興味を覚え学んだとお聞きした。面白いのは、見学者の多くは設計をする人なので、当然ながら様々な逸話も心得て訪ね確認をしてゆく。その一々を案内下さった方は覚えていて、私を案内してくれた時はあらゆる部位でそれら逸話を紹介下さった。

ちなみに私も、一つ二つ発見した事を伝えたのだけれど、それはその後に話さる機会はあっただろうか?

写真は和室から撮ったと記憶している。水のある中庭越しに建築のファサードが見える。このルーバーはアルミの鋳物で精悍であり端正であり、作りなす陰影は表情に深みを与える。覚えている逸話の一つは、このルーバーについて。

回廊は人が歩け、このルーバーに触れる事が出来る。触れると、中身の詰まった重厚な、まるで石かコンクリートの様な重みがあった。

人の触れる高さまでは「砂」を詰め込んだらしい。この重さ、硬さが感じさせる強さは守られている安心感を感じさせる。素晴らしい。で、高いところを叩いてみると・・・中身の空の軽い音がした。なるほどだった。

学生時代既に世代前の建築で、目新しく華々しい現代の建築に隠れてしまうのかと思えばやはり、訪ねると学ぶべき事の多い建築で、それは10年前にも改めて実感をする。良いのなら、何にでも学べと思う。

生命会社が破綻した際は建築はどうなるのか?不安を覚えたものの今は区役所として活躍する機会を得た幸運な建築かもしれない。これからも大切に使われ、訪ねて来た人を安らがせるのだろうと思う。


建築を訪ねた時の印象は大切にしている。この建築が好きなのは、印象がとても良かったからだ。人を迎え入れる時に建築はどうあるべきなのだろう?心から学ぶところの多い、心ある建築だと思う。


と言う事で、何故「砂」を思い出したかと言うと、実は過去に習った事がある。それはお寺の設計でホールに鉄骨の柱を使った時の事だった。鉄骨造の大きな空間にツインのコラムを使い、現わしの塗装仕上げとした。鉄は十分に重いのだけれど叩くと軽い音がする。細くシャープな柱は人が触れる場所にあり、確かな重厚感のある存在としたかった。