【20.07.11】せなけいこ展

f:id:N-Tanabe:20200712101240j:plain

絵本の名作「ねないこだれだ」の作者の展覧会を訪ねた。本は印刷物だけれど実は、貼り絵だ。子育て中に製作したらしい絵本、絵の具よりも中断可能な貼り絵の手法をと案内されていた。その貼り絵も極めると表情の豊かさに驚かされる。表題のお化けは柔らかい白い紙を丁寧に引きちぎり輪郭したのだろうか、おぼろげなお化けの姿で合致する。

模様があったり、硬さや繊維の具合の様々な紙を、丁寧に切ったり引きちぎったりと様々に加工し重ねられ、一枚の絵になる。

人の髪、陰影を優しく割いた数色の紙を重ねた表現にはびっくりした。単純だけれど実に効果的で自然に見えた。

腕を組む人の表現も面白かった。紙を重ね表現するのだけれど、組まれる腕はその前後が逆転する。正しく順序をつくらないと違和感を生じる。紙というとても薄い素材を使ったレリーフなのだと思う。見る人から見て、手前にあるものが手前にないと違和感を覚えるだろう。

本では二次元の印刷物になってしまうけれど、実物は少し斜めから見れば紙の小口が見え立体的だ。それがとても薄い奥行きの世界であっても、人の目には明らかに立体に見える。貼り絵だけれど、重ね絵と言う方が正しいかもしれない。正しく重なると違和感を生じず素直に受け入れられる。そこで「はて?」と思い直して観察を始めると、実に緻密な作業の様を想像させられる。もともと絵本なのだし、技巧的過ぎては煩くなる。より少ない手数で欲しい表情を得るための修練は相当だったに違いない。腕を組む人は前後を入れ替えしっかり組まれ貼られていた。

印刷物のねないこだれだのお化けが一度見れば忘れられない印象を残すのは、そういう仕事があればこそだったのかとあれこれ想像を楽しんだ。