断熱グラデーション


以前に計画した案は、『断熱区画』にグラデーションを与える建築だった。このアイディアは今も温めている。『ドマ』を使うのだけれど、区画する際は或る程度の規模が必要になるのが少し悩ましい。


■phase1:基本断面
基本の断面図。南側にエンガワ(ドマ)を設け、居住空間は北側に設けている。南側へ傾斜する屋根は北方住宅では基本となる。一般には逆勾配では?と思われがちですが、現代の気密断熱仕様では日射取得熱は大きな負荷になってしまう。

逆にすると・・・夏は当然の温室、冬場でも日中は熱くなり、夜は開口部の断熱性能が桁違いに低い事もありコールドドラフトは免れず、なかなかの最悪な環境条件となってしまう。



■phase 2:通風
『通風』は欠かせない。温度差で暖かい空気は上昇する事も利用する。冷房負荷を軽減する為にも通風である程度の建築室内の冷却化、夜間に通せばより効果的でもある。



■phase 3:採光
『採光』は建築空間における重要な要となる。居室を北側に配置するのは、天空光採光が効率的に出来るから。「陽の無い北側?」と思われるに違いない。ところが、いざ北側高窓採光の住まいに住んでしまうと、それこそが!と実感される。

南面の採光は強烈過ぎて室内に明暗、温暖のコントラストを強めてしまい、室内環境のバランスを崩してしまう。



■phase 4:日射取得①
この計画ではエンガワ(ドマ)は天井もガラス仕様としている。その下に日除け板を設けている。夏場は倒し傾斜させ、取り込む日射を制限する。



■phase 5:日射取得②
冬場は日除け板を別角度に倒し、日射をより多く取り込む。居住空間にまで取り組むと温室になってしまうけれど、エンガワ(ドマ)では都合が良い。ドマ床は蓄熱が可能な仕上質、昼間の熱を蓄えて夜に放出する。



■phase 6:ペリメーターの暖房
エンガワ(ドマ)は床暖房とし、最低限の温熱環境を維持し、窓が大きく熱負荷の高い南側空間と居住空間を切り離すことで快適環境を、必要な部分にのみ得るよう計画をしている。



■phase 7:居住空間の温熱環境
居住空間のエンガワ(ドマ)は床暖房として最低限の温熱環境を維持し、窓が大きく熱負荷の高い南側ドマ空間と切り離し居住空間の快適環境を確保する。冬期の必要な熱量を必要な空間に集中させる仕組みとした。

悩むのはドマと居住空間との断熱仕切り。中空ポリカーボネートの建具か断熱ブラインドを想定し、ドマの居住空間には段差を設け、南面の大きな窓からのコールドドラフトの侵入を軽減させている。

この仕切りには気密性は完全ではなく、隙間風は免れない。ただ、昔の北方住宅で経験する深い極まりない隙間風ではなく、人が知覚できる範囲として。何処に居ても快適であるのは一つの理想、外の寒さをやんわりと感じられる程度に出来れば、一枚羽織る程度で支障ないのが望ましい。

屋外環境と断絶するのではなく、緩やかに感じられるのはより良いのではと思う。断熱区画を内と外で断絶してしまうと、室内では半袖短パンでアイスを食べ始めてしまう人は少なくもない。



■phase 8:冷房時
真夏の炎天時、通風では防げない状況下では冷房も考える。その際にも日射を防ぎ、より高性能な居住空間のみを冷房すれば負荷は軽減出来、省エネが可能だ。


■phase 8:考察
省エネ性能を高める工夫の一つとして考案した、この計画は居住空間を手厚く、通路空間でもあるエンガワ(ドマ)は一般的な断熱仕様でと計画している。

納屋の様な空間の中に断熱された小屋状の室内を設ける案もある。仕様を高性能とその他を設けることでコストを削減する意図もある。

居住空間では、LDKは寛ぎの空間となり、居る際は相当に油断する。ココは手厚い温熱環境が必要だ。けれど寝室類にはそこまで手厚い熱供給は必要がない。モーフか布団を被れる程度で宜しい。勉強スペースだとしても、油断して寛ぐリビング程の熱は必要がない。
建築室内を温度差なく一体的な温熱環境とするのは北方住宅が求めた理想なのだけれど、それが実現可能な今は、改めて外界環境を緩やかに、つまりグラデーションする温熱環境を築けたなら?

具体的には通路は歩く空間で「動いている状態」なのでリビングで寛ぐ程の暖房は必要がない。住宅内部においても実は利用の状況に応じて差のある方が望ましい。

受験や試験勉強の際に、油断して寝転んでも困らない程の熱は必要がない。むしろ、少しピリッと来る程度である方が良いかもしれない。快適過ぎると睡魔との戦いになるのだし。床暖房とする際はセンサーはリビングと分けて個別にすれば良い。

一昔、二昔前の「寒い」住宅は全く望まない。けれど、全く均質では人を駄目にしかねない。バリアフリーを考えても、車椅子利用となれば容易に対応可能な計画にするとして、通常はやんわりと段差や傾斜は或る方が良い。完全にフラットでしか生活できない過保護に施してしまうと、道を歩いていて歩道の段差も乗り越えらなくなってしまい、逆にバリアーを張り過保護を徹底仕舞いかねない。バリアフリーの精神とは外れてしまう。

自分?フラットでなければ動けない状態なら外出はしなくなると思う。便利は人を駄目にし兼ねない。車い椅子生活となるなら、その時に改修できる計画としておけばよい。長いドマがあれば斜路は設けられる。


何時でも温暖で快適な居住空間、布団を被れる寝室空間、歩行のみの空間、トイレや浴室の空間、キッチンの作業空間、これを極端にではなく温熱的にグラデーションが出来る性能があれば良い。麻痺す程に外と断絶するのではなく、緩やかに繋がるのいい。ドマを実践しているのは、更には視覚的、『空間』の豊かさを得られるので。