光明寺設計物語【2017.09.22】悩む。


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夏を終え、初秋を迎える頃、陽は長くなる。
西日の差す頃は実に長く、本堂を越して
それは内陣にまで届く。
 

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自然光で浮かび上がる金色の空殿。
荘厳で御浄土を表す様は印象的だ。

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この時も庫裡の在り様に頭を悩ませる。
これはその場でのスケッチ。

住宅として見れば二世帯住宅に相当する。
しかもそれがお寺を支える職場ともなる。

設計で注視したのは門徒様を迎える仕組み。
これまで庫裡のリビングに通す事で、実に
親しみある様が築かれていた。これは特出
すべき事だった。
私が訪ねる際は必ず庫裡のリビングに招かれ、
坊守がお茶を入れて下さり寛がせて頂いた。
その迎えて下さる親身な様に感じ入っていた。
別け隔てなく迎える丁寧な様は素敵だった。
多くの場合、住職も副住職も忙しく出かける。
お寺に在るのは坊守で、なるほどと実感する。
新しい庫裡にも、これは是非と願っていた。

ただ、お寺を守る人にもプライベートがある。
常にリビングを応接として使うなら、
日常にプライベートがなくなってしまう。
どう折り合いを付けるのかは最大のポイント。

そして、庫裡は二世帯住宅となる事。
これは世帯間の関係が問われ、正解は無い。
又、新しい庫裡は長きに渡り使われる。
何世代を経ても使える二世帯住宅としても
考えなければならなかった。
・・・解けるのか?不安になる課題だった。


二世帯住宅の領域区分は幾種かある。
①水周り含め諸施設を共有する。
・・・理解のある関係に限るか?
②水周りのみ共有し、別世帯を守る。
・・・やはり理解ある関係は欠かせない。
③完全分離。
・・・玄関も別とし建築を共有する関係。


③は悩まず思慮を深めずに解決できる案。
建築規模を大きく出来れば済む安易な案。
②は折り合いの良いプランだと思う。
水廻りは面積を使う。使えばリビング等の
空間が割かれ小さくなってしまうので、
必要部分を共有して最小限にし、広がりを
出来るだけ大きくする案。
①は稀な事例になるかもしれない。
サザエさん方式だろうか。仲が良くとも
喧嘩はあるだろうし、ストレスは溜まる
かもしれない。けれど、上手く調整が
出来れば、得た建築空間を最大限に活かし、
楽しい建築を求める事が出来ると思う。

何れのプランも製作し提案させて頂いた。
一長一短がある。それでも最後まで、
③の完全分離案を望まれていた事もあり、
それがどういう状況下をパースで示した。

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俯瞰でパースを効かせると、まんざらではない案。
これはヴォリューム模型も制作して持ち込んでいる。

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ただ、真横から見ると右手の庫裡のヴォリュームが
大きい事が分かる。圧倒的な存在感を生み出す。
お寺を見て、立派な庫裡だね!と言わせては間違い
ではないかと思われた。
しかも、ここまでヴォリュームを増せば面積も増し、
最低限の仕様でも予算を超える事が容易に想像出来た。

先のスケッチ写真は最終形に近い庫裡プランとなる。
そこに至るに10年毎を想定し住まう人数の変遷の
シミュレーションを試みた。50年以上は試みた。
おそらく、現時点は最大限の人数構成となり、
けれど最小は2人の生活も在る事がわかった。

パースのような規模となれば部屋数は多く出来、
どのようなケースでも満足できるものの、
最小時は部屋を持て余し、維持管理費用は最大。
将来にコスト負担を掛ける選択肢も難しい。

結論を言えば、庫裡は3つのスペースから成る。
A:応接スペース
B:1階居住スペース
C:2階居住スペース
③の完全分離タイプとしつつ、各スペースを
最小限にし、Aの応接スペースを確保する。
居住スペースの面積を抑えるために、
個室の基本は大部屋、必要に応じて間仕切は
家具で行うこととした。子供用スペースは
ロフトも組み合わせ、最小限で取り組む。
子供の人数、男女の別があっても、何とか
出来るように考えた。
肝心なのはAの応接スペース。これを残す
のは居住スペースを割く事になるものの、
応接を設ける事が出来れば居住スペースを
侵さずに済ませる事が出来る上に、
応接時以外は自由に使える余剰の空間にも
出来る。テレビ争いに負けた者がここを
占有しても良い。

これまでと同じく来客の際は庫裡に招く
事が出来るプランだ。このお寺の個性を
受け継ぐプランに至れた。
10名程度の会合なら庫裡で行える。
大人数ならお寺を使えば良い。10人が
佇めるなら冬場にお寺の施設を温めずに
迎える事も出来る。

ここに至るには更に、本当に時間を要した・・・

試金石は次に迎えるお寺の最大行事、法恩講だ。
フルに動員し、庫裡を空ける時間も生じる機会、
話にはお聞きし、セキュリティーも考慮した。
それが実践出来るのかも含め確かめなくては。

 

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以前に載せたこの写真は、お寺からの帰り道。
月のある夕暮れ時・・・殆ど真っ暗っだけれど、
山の稜線に僅かに陽が残っていた。