【 project S寺 】計画② 諸条件の整理。

具体的な「計画」、設計過程の案内を通じ、設計ストーリーを語る。

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①既存
現状の理解。既存建築のあるS寺、その配置図がこれ。図面上がやや西になる。その西は丘陵の山側、図面右の北側は谷になる。接道は図面左の南側、図面下の東側は崖となり高みで眺望が開ける。

この計画は古く傷んでいる「納骨堂」の建て替えが予定されている。既存建築は二つの建築から成る。一つはとても古くこのお寺の象徴でもある本堂、南側にある。その北側の東西に長い建築は20年前に建築された増築棟になる。庫裡を含む広間や厨房、応接や法中部屋等から構成される。その建築の際に納骨堂は手を付けられずに当時在ったまま、今に至る。

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②計画範囲
先ずは、この「納骨堂」を解体撤去から始める。改修し改善出来るかどうか?現在の要望を満たす規模になく、また、屋根を含め痛みが確認出来る上にそもそも現行法規に合致する構造にない。また、20年前の増築建築との取り合いに無理もある。既存建築を将来の担える十分な状態に手を加えるなら新築並みのコストか上回る事も予想され、それでいて必要な規模に達しない。故に既存を撤去し、棟として新築を方針とした。

現地調査も含め、ここでは建築可能範囲を確認する。現在の範囲を大きく超える事は出来ない。増築部分との不具合を含め改善出来る上に、既存建築の動線との融合、在るべき姿を模索する。

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③計画案
このプロジェクトでは二つの増床を提案した。一つは「納骨堂棟」、一つは「倉庫棟」。面的に接続増築は既存建築に現行法の適用が必要、構造躯体から問われる状況となり現実的ではない。渡廊下を用いて別棟として計画をする。提案では4棟の構成となる。納骨堂と渡廊下、倉庫棟と渡廊下の4棟構成。予算が許せば4棟、必要なのは納骨堂。

倉庫棟について先に述べると、既存建築の観察の末にたどり着いた思いは、収納量の確保だった。既に長い時間を経たお寺、ものは多く溢れても居る。本堂には椅子その他が積み上がる。内陣後方の通路は倉庫になっている。慣れればその光景が日常かもしれない。けれど、初見でそれは雑多に見える上に使い勝手が落ちていると判断出来た。

整然とするには先ず、ものを整理出来るスペースの確保が肝心。この先も長く秩序あるお寺の素直な光景を得らたい。加えて、落ち着いて眺めの良い憩いの場所の併設までもと考えた。予算の都合がつけば、これは必要な施設となる。道路面にあり、アプローチから見えるファサードの一端となるので、実はその意味では外観の「正装」を助ける事も出来る。より相応しい佇まいを得られる棟、是非にと思う。


■要望の要の納骨堂について。
敷地の状況から建築可能な範囲規模を確認し、要望に適うヴォリュームを検討する。また、既存建築との関係を正す。動線の末端となる納骨堂、動線の拡張となる。人の歩く道、その末端を担う施設の創造は既存建築の改修、リノベーションになる。

動線は人の移動する過程、物語になる。最後に出会うシーンが印象的なら完結した綺麗な物語を描く事が出来る。常用既存部分において納骨堂は末端に過ぎないものの、それが動線を印象付け新たに出来るのなら真のリノベーション事業に出来る。

新築棟のみが綺麗でも既存部分との関係が円満でなければ、印象はバラバラとなり、願うべき姿とはならないだろう。新たに加える部分が既存部分を良好に拡張出来、友好ならより望ましい。考えるのは増築する建築部分のみではなく、全体に及ぶ。そこまで踏まえた納骨堂の設計に取り組む。訪ね来られた方が気持ちの良い建築に出来るかのカギを握れる可能性を確認出来る。ごく一部の増築なのにね。


設計の問題が、ここで明らかに出来たと思う。どう創るか?温め過ごす。


計画① 計画② 計画③ 計画④ 計画⑤ 計画⑥ 計画⑦