【 project S寺 】その後。

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正式に順延となったお寺の納骨堂の計画、気持ちを込めて設計に挑戦をしていたので残念な思いは強い。無理をする時期ではないと理解が出来るし、気運をどう温めるか、待つことも必要だと思う。

正直、この屋根はどう造ろうか?スケッチに描きだした時から悩んでいた。図面にすれば一層、悩みは膨らんでいた。実施に至る暁には、是非とも綺麗な屋根にしたい。お寺の建築にとって屋根は象徴的で印象を良くつくる。本堂の屋根と呼応しつつ、無理なく造れる構造を考え、その室内にまで及ぶ質良い空間の創造、挑戦し甲斐がある。

元々は納骨堂の相談、そこから既存を3度に渡り観察し、報恩講にも出席させて頂き、誰も居ない時の様子、お寺の最大行事の最中の様子など短い時間ではあるけれど滞在をした。随分良く眺められたのは、過去のお寺の設計経験があったからだと思う。

報恩講など目くるめく忙しさになる。本堂はもちろん、お寺施設の多くがフル活動となる。何処へ行けば誰が居るのか想像の付く事もあり、要領を得ていたのではと思う。境内から建築も良く観察が出来た事もあり、色々と気付く。

倉庫棟が欲しい。これは既存のお寺の運用をより円滑にしてくれるはず。今はお寺の正面にプレハブの物置がある。これは少し残念だ。にも拘らず、前回の改築後既に時間を相当に経過している事もあり、モノは実に多い。徐々の変化を利用者は受け入れてしまうに違いない。これを整理できるだけで見違えるはずだ。それに外観視でも明らかに修繕の必要が生じていた。メンテナンスは、怠り何かが壊れてからでは遅い。壊れたなら掛かる費用はメンテナンスのコストを遥かに上回る事になる。

増改築の設計は実に難しい。その機会にすべきことを成すまでを想定したい。当然ながらお金が掛かるので安易な提案は出来ない。効率的で合理的な判断が欠かせない。余計な事をと思われてでも、それは設計倫理からも私は必ず行う。何れ必要な事を伏せてしまえば、結局は後に「あの時に」という後悔を生じさせてしまうだろう。委ねられる判断を預けるまでが設計の仕事、頂いた判断に誠実である事も同じく仕事だ。

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この計画において、納骨堂の方針を3つ示す事が出来たのは貴重な経験だった。過去に2つ、お寺の納骨堂を設計している。増築では同じことは出来ないのは当然として、その時の経験は生きる。何れも、その後の利用の風景まで観察をしている事もあり、このお寺では「どう在るべきか?」を真摯に問う事が出来たと思う。

許される場所は境内のやや西方の北側にある。恵まれた場所かと言えば、どちらかと言えば裏側に違いない。ではあるのだけれど、魅力的な場所に思えた。私は、どのような条件下であっても、主たる建築条件となる敷地の個性を見逃さないよう努めている。日陰勝ちの裏側と思えば、一般にはそう見えるに違いないのだけれど、その静けさと周囲の景観の良さ、更に奥にある森の深さはあまりに魅力的だった。悲観的に書いてみたものの・・・最初から集中を奪うものばかりだったので、何を使おうか?に悩みました。

載せた3案は、夢中に想像したものと、具体的に既存建築との接続を考察して得たものになる。増築とは既存動線の拡張になる。より適切な光景と出来るなら成功だ。既存はこうだったのに、より良い光景になれた!なら、尚良い。多くの場合は付け足したものになるだろう。実際、以前のお寺の設計で数々のお寺を見学する機会があったのだけれど、古いお寺程に難解な平面となっていた良く似た事例でホテルを思い出していた。特に観光ホテルは旅形態の変化の度に増改築が施された結果、正に迷路になっているのを経験された人は少なくないのではと思う。お寺も同様で、必要な施設を許された敷地の中に展開させ増改築をした結果、迷路のようになっている事例が少なくない。それはそれでもちろん、冒険し甲斐のある迷路には違いないのだけれど。修学旅行で行った観光ホテルの室内を夜に彷徨い楽しんだな・・・というのは望まない。

迷路要素は自ずと残るとして、既存施設の動線がこうあったら理想出来だな!という様を探る。納骨堂は動線の末端にあるのは必然だろう。その更に先に何か施設があるなら迷路だ。そもそも納骨堂には落ち着きは欠かせない。誰かに邪魔される状況は避けたい。として、既存部分と扉等でガッチリと仕切ったのでは幻滅だ。彷徨いこめる程度にオープンで自然と繋がっているのに、気付けば静かな空間に導かれ心からお参りが出来るのが理想と考えた。既存建築の構造を壊さぬ場所を選んで増築、既存動線を壊さずに自然な様で動線を拡張し、確たる空間へと誘う。

境内の建築可能な場所で、見つけた魅力のどれを使うのかと相談をしつつ、最後に出会う場所に相応しい風景を選び、そこに在る建築が既存建築と呼応するよう佇む事、良い提案を残せたと自負している。

再開までに、今回の提案は檀家様などの目に触れるだろう。機運を作る助になれればと願う。