佛願寺 その④ スケール感の検証

設計した建築は図面があるので、後に如何様にも検証が出来る。先に記した【光明寺】『スケール感を科学する』は自分自身が興味深く、秋に訪ねた【佛願寺】も改めて検証を試みる。

数十人、100人単位で人の集う場所は用途に応じる事が多く、お寺の『空間の質』を問う、つまり、スケール感を大切に設計する機会は大変に貴重です。


【佛願寺】の会館、これは竣工写真。冬竣工の室内は南側の窓から西日が長く室内に入り込む。エントランスとは仕切りなくオープンな空間は、住宅で例えるなら、玄関やホールが仕切られずにリビングまで一体の空間に相当する。混乱しそうな室内をどう整えるのか?


右手がエントランスで徐々に空間を膨らませ大空間の会館へ導く。


建築全体は古い本堂が聳え高く堂々としている。そこに円弧上の高さ3.6mのコンクリートの大きな壁が立ち、穴を潜る。ここには円弧の屋根を掛けアプローチとした。低い屋根がヒューマンスケールを創る。

潜ると風除室があり、玄関からホールは見えるものの、低く囲った靴置場を通り抜ける必要がある。会館の正面は幾重にも重ねた壁があり、各々に高さを違え、徐々に求心する仕組みとした。オープンなスペースは天井高が様々にあり、会館は柱に囲われている。

実際には『採光』と組み合わせ、低い天井のアプローチや玄関、靴置場から眺めると『外』のような光と大きさの会館、領域はシルバー塗装の鉄骨柱が示す。


これは上手く出来ていて、今も訪ねると引き込まれる!具合。更なる問題は、ここから遠い納骨堂までの動線、そのスケール感の調整。


古い『本堂』とは『渡廊下』で結ばれる。これは建築基準法上免れなかった。
右から、『渡廊下』『本堂廊下』『附室』『渡廊下』と続く。納骨堂は比較すれば小さな空間の建築、大きな会館や本堂を通り抜けると、小さく見えてしまう。そこで、床レベルを揃えるためのスロープのある『附室』から納骨堂への『渡廊下』天井高を極めて低く設えた。幅は狭く始め広がる大形状に。


低い天井の『渡廊下』から、この納骨堂へ辿り着くと天井は高く見える。


実際、天井の高さは高い。高いけれど住宅の吹き抜けよりも遥かに低い。高く見えるのは手前の『渡廊下』の天井の低さ故に感じられる相対的な感覚による。ここを小さな空間に仕立てられるなら、動線の最末端にある阿弥陀様が大きく見える。

大きな『会館』や『本堂』を通り抜ける動線、間違うと納骨堂は小さな施設に見えてしまい、動線の終わりに出会う阿弥陀様が貧相に見えてしまい兼ねない。


会館を含む一期工事の様は、この20年間通い感覚的にも確かめている。
納骨堂はこの10年以上の間、通っては都度、感覚的に確かめている。

朝夕何度訪ねても印象は変わらず。秋に訪ねた納骨堂は夜、一人で最小限の照明で歩み進み楽しんだのだけれど、正しく在ったと思う。

・・・後から来た住職は『照明も付けずに何してるの?』と。建築家が自身の設計した空間を満喫してるのだから、そこは忍び足で近寄り、後ろから「ワッ!!」と脅かして欲しい。





同じお寺でも、本堂を残して左右に新築建築を増築した【佛願寺】と、本堂を含めて施設を建て替えた【光明寺】とではスケール感の創りはまるで違う。増築の場合は既存空間を組み合わせる必要があり、より複雑になる。実際、幾つものお寺を視察したけれど、殆どのお寺は長年の月日の間に増改築がなされ、ちぐはぐな印象は拭えなかった。佛願寺では、長い動線である事を肯定的に使う事で変化を活かせたのではと思う。新築出来た光明寺は採光を含めて整合出来る空間に出来た。

一つの建築なら、動線に沿ってストーリーの生まれる空間を計画したい。


以下にスケール感の検証リンクを。
■【MoAi in ny】の検証!
■【 DOMA/NATORI 】
■【DOMA/Hakodate 】
■【 DOMA/Yamanote 】
■【 DOMA/道南(South Hokkaido) 】
■【 Bookshelf 】
■【 Compact house 考 】
■【 一般的な住宅との比較 】
■【 佛願寺 】
■【 光明寺 】