「寝技の女王」

柔道なんて4年に一度、オリンピックで観戦する程度ではあるのだけれど、どうにも面白い。安定したものを如何に崩すか?その崩れる瞬間を目撃する事が出来る。重力により安定した「重さ」が、その重さ故に崩れる。

その感覚は設計にも通じる。建築おいて「重さ」は難題になる。ここで言う「重さ」は実際の重量ではなくデザインに置ける感覚の事を含む。そもそも大きく重い建築は、そのままでは人がより付けない程の威圧感を放つ。または閉じ込められる様な閉塞感を招くかもしれない。如何に「軽く」するかがデザインの基本であり、その際にどう崩すか?が技術になる。押したり引いたりして足を掛け相手を転ばすだなんて、面白い。エスキースは実は、そういう作業をしているのではないかと思う。押したり、引いたり、但し確実に組むべきは押さえ、そして足を出して掛け崩す。

上手く崩せると、人の居るのが似合う軽やかな風景が生まれる。


と、つい建築の事を考えてしまうのだけれど、話を「柔道」に戻そう。今回は大きな発見があった。強い日本の柔道選手の中で一人、特別な選手が居た。女子78Kg級の柔道選手、濱田尚里だ。彼女は柔道のルールの中で一人だけ違う競技をしているのではないかという程に新鮮なスタイルを披露していた。

その強さは圧倒的で、予選から決勝までの4戦を全て一本勝ちで完勝してみせた。おそらく、代表選手選考が見える頃にはもちろん、この数年は確実に世界からも研究対策をされてきたはずなのに、この機会には揺ぎ無く確実に一本を取り到達してしまった。「寝技の女王」の異名を持つ選手らしい。オリンピックの4本は全て抑え込んでの勝利だった。

海外選手は背は高く手足は長く力強い選手ばかり。立ち並んでみれば、勝負は既についていると思える程の体格差があるのに、試合が始まると、負けないためには組まない事、究極には触れない事とでもいう具合で、諦めて勢い攻め込む相手選手は、どちらが先に立ち技を繰り出したかに関係なく畳に膝をついた時点で丁寧に捕まえられ、成す術なく腕を絡め決められて直ぐに足をジタバタするしか選択肢がなくなっていた。一体何が起きてたのか?知りたくなり、久しぶりにYOUTUBEで動画を探してしまった・・・

ロシアの格闘技「サンボ」で世界制覇も達成した事があるらしい。動画によっては解説者が笑い出す始末だった。こう出来たら良いな!という柔道を目の前で体現され笑うしかないらしい。投げ打つ時に引いた相手の腕を、打つ時には既に捕えていて、投げ終えた側から抑え込みを始める始末だった。地に伏した相手があれば、丁寧に帯に指を通し襟を捕まえ起こし右足を相手選手の体の下に差し入れる。そこに至ればもう逃げる事を許さず確実に締め上げて行く。とんでもないモノを見せられてしまった。

体格差のある選手、重い選手もお構いなく自分のスタイルに引き込み、派手さの一つも無しに通常ルーティーンで確実に抑え込んでしまう。この選手は30歳で初めてのオリンピックに登場をする。披露した技を会得するに必要な時間だったのだろう。20歳前後から頭角を現し長く君臨する天才もあるけれど、初めて世に知られる時に完成した姿で登場する人もある。寝技は絵的にはとても地味で、実際、何をしているのか良くわからない。それが取り付かれる程の鮮烈なイメージを醸し魅力的に見えてしまうとは。



実に印象が良い。良いイメージが得られた。この感覚は覚えておきたい。どんな敷地、条件であっても確実に手の内に納め攻略が出来る可能性があるかもしれない。分野は違えど実践例を見せつけられてしまった以上は探る価値がある。しかも、ベテランのというのではなく唯一の独自スタイルとして。