記念塔のモデリング その⑩ ゴジラの背板の効果

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実はモデリングを始める際に興味を覚えた部分がある。それが「ゴジラの背板」と私は呼んでいた、曲面に備えられた△の突起だ。曲面に沿う三次曲面の突起・・・図面に従い3次曲面で更に切り欠きもとなれば作業は膨大でデータも膨大、最大の悩みになっていたのだけれど・・・現実には3次曲面に折り曲げ加工は不可能だったらしく、短い三角柱を継いでいたので、モデルも同様にしている。それでも、大目地から45度で上下ともにカット作業は結局、一つ一つが手作業で、この絵で見れば些細に見えて果てしなく、諦めたくなるか、断る要因に違いない。

そこまで手間を掛けさせるものの、果たしてどのような効果があるのか?

本体は数式で表される極めてクールなデザインなのに対して、この突起は土着的でクールさとは真逆の性質が感じられる。敢て必要と考えた理由は何だろう?設計者は何時、これを必要と考えたのか?不思議は多い。


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既に3Dに建つので、後は私が自由に扱う事が出来る。そこで、ゴジラの背板を外してみた。

綺麗な曲線が際立つ。ただ、シンプルで空想的、大地と呼応する印象は感じられない。


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ゴジラの背板を設けた、現在の姿がこれになる。ムクムクと天へ伸びる生命感を感じる。ツクシ、という方もあった。私には先端が二つに割れる具合もありトンボの尾に見える。あの地味な三角が、洗練されたというより土着的な雰囲気に思える三角が、生命感を与えているように思える。

三角は正三角形で高さは1m、人に比べると大きな三角に違いないけれど、100mの塔に対しては実に小さな突起で、デザインを邪魔しかねない余計にすら見えるのに、そのシルエットが曲面に加わり、大目地と相乗して独特のシルエットを生み出している。全長に対して1/100でしかない突起の効果、大目地を強調する陰のような存在にして、ランドマークとして遠くから眺める際はまるで気にならない程度の仕組みだ。

これは私にとって、初めて見る仕組みだった。

「塔」はそれなりに沢山見ていると思う。例えば聳える棒として「柱」も想起出来る。ギリシャ建築の主たるモチーフの柱はエンタシスと言い、中央にムクリを設け、ふくよかに伸びる柱を作っている。

例えばラグナール・エストベリによるストックホルム市庁舎の塔の印象深さはある高さで先細りになる角度が設けられていて、故に遠くから見える塔が実に印象的に見える工夫がある。

人が何をどう感じるか?感性としか言えない感覚が決定の判断を下せた時代の仕組みは実感を伴う。正直を言えば、ルールもマニュアルもないので真似も再現も出来ず、欲するなら自分で編み出さなければならない最難関のデザインだ。

そういう印象を、近代に解答してみせた実例がこの北海道開拓記念塔になる。50年前の事だけれど、事例は観て素直に学べ。古に学ばなかった人はいない。真似ても良いのだけれど、それでは退屈なので、何故?を考えては法則を探し、再現を試みるのが楽しい。ストックホルム市庁舎のあのシンボリックな塔の秘密など、机上で知る事も出来るけれど、あれを自身の設計で再現採用できるか?など、やはり最難関になる。50年を経た今、改めて眺めても目を離せなくなる存在が今、北海道に在る。

これが正解ではないけれど、正解の一つに違いなく、眺め知る価値は十分過ぎる。モデリングで苦労した甲斐はあったかな。非常に面白い。