【 百年記念塔 Digital Reconstruction 】その⑧・・・専門家による現地調査参加

解体の危機に直面する百年記念塔は、50年先のメンテナンス費用に比べ解体費の方が安価なので解体すべきと政治判断が下されている。

・・・50年先までのメンテナンス費用?本当にそれに照らしてしまえば、道庁も時計台もテレビ塔も当然ながら免れないけれど、それで良いのだろうか?

老築化も原因とはされるものの、現状の塔はどのような状態なのか?7月初めに催された専門家による現地調査に参加した。


ふふー羨ましがられるのだけれど、百年記念塔の90m超の高さにある屋上まで登った。まー見事な景観!!


晴天に恵まれた調査日であった。暑い?これからあの塔を登ると思えば・・・見上げた時点で汗が止まらない。


ヘルメット着用で、塔の入り口を目指す集団は皆が専門家。


塔の表層はコルテン鋼と言い錆びた材料だ。腐食層が内部構造を安定させる特殊な金属素材で、今は普通にどこにでも使われている。その先駆的使用事例が記念塔になる。

パースでも描いた足元、ゴジラの背板の3段目くらいは登れそうに見えるけれど、一気に急勾配になる上に高さは10mを遥かに超える。高校生くらいだったら無謀にも登るだろうか?目の前にするとやはり、怖いな。でも、一度は挑戦してみたい。ダメ?


初めて入った塔体内部のトラスによる鉄鋼構造本体を下から眺める。あまりに綺麗で驚いた。床には落ちたボルトが転がり錆び付いた廃墟の世界はまるでなく、50年前?と疑いたくなるほど健全な構造体があった。


流石に時間経過はあり塗装に劣化は見られるけれど、少なくとも倒壊のおそれのある劣化状況は微塵も確認が出来ない。最低でも『健全』としか評せない現況だ。これは一致した意見になる。


塔全体の確認のために25階を登る。エレベーターは24階まであるものの利用できず。只管、登る。


階段は吹き曝し、ルーバーが設置されているものの風雨に曝された部分の腐食部位が確認出来る。それは部分的なので急務だとして対応は十分に可能だ。床階段の縞鋼板は構造共に健全で屋上までの全てにおいてグラつく部分はなく安心だ。


25階はエレベータヘッド階、僅かな足場があり、そこに梯子がある。ここから屋上へ出る事が出来る。


塔は25階建、その全ての階に点検口があり、そこから塔体内部の構造にアクセス出来る。残されている点検通路はおそらく施工時のものと思う。点検口は防虫網のある通気口となっていて、内部は常に換気される事からも状態は良い。直接に風雨に曝される事はないものの塵埃はあり、50年分の汚れは顕著だ。気密性のある外皮構造ではなく、鉄骨故に結露もあり、雨水の伝わる場所もあるようだ。


ハッチからは溶接個所が見渡せる。見ているのは塔デザインの30cmの大目地の裏側を内部から見たもの。箱状に折り曲げられたコルテン鋼が取り付けられている。実に丁寧な仕事が成されていた事がわかる。


塔の外皮となるコルテン鋼は内部から溶接接合されている。施工の過程が良く分かる。トラス構造の本体から持ち出した外壁下地に外皮は溶接されている。

直接外装材に触れるには足場の足りない部分はあるものの、ほぼ全ての範囲を目視が出来、打診検査も可能な状態にある。

メンテナンスをするなら先ずは清掃から。鉄骨の汚れを落とし塗膜劣化部分は塗装保護をしたい。数年を掛けて汚れの進捗状況を確認すれば、修繕の必要な個所対応を検証出来るだろう。状況を見極めたうえで改修計画をすれば適切なメンテナンスが出来る。それだけで済む事を考えると、維持に置いて最大費用を公表し解体の方が安価で合理的だ!とする北海道の判断が根本的に間違いだとしか言えない。

初見でどうメンテナンスするか?私でも複数を想像ができてしまうくらいに状態も施工環境も十分に整っている。募れば有効な案は容易に複数が集まり困るだろうな。

建築的に「解体」を要すると判断出来る状況にはない。それが現実だった。この調査には複数の構造家も参加されていて倒壊のおそれを指摘される事はなかった。設計施工から50年、耐震設計の基準は変わり確認作業は望ましいのだけれど、現実に今に至る塔を思えば、「解体判断が政治的なもの」ではないか?と言う疑問しか残らない。今は行政の常套手段で隠され届かないのだけれど、壊す事を最優先にした人達が、どこかに居る。

彼等の根拠のために無理やり50年先のメンテナンス費用という、通常は聞いた事もない理由が持ち出されている。道庁を壊せとは微塵も思わないけれど、道民が改めて訪ねる事もなく観光地としては侘しい建物に費やされている維持工事費が如何ほどか?「合理的」を振りかざした人達は何と説明するのだろう?経済的メリットを生み出すとは思われない公共施設故に文化的な価値を明らかにしなければならないのだけれど、それは出来まい。スタンダードはダブルかトリプルに用意されている。

もしも設計契約書に「将来において政治的な理由、誰かの都合で解体される事があります」と記されていたら?そんな設計を頑張れるわけがない。健全な建物が取り壊される事態は『建築』を揺るがす。


少し難しい事を書いた。では、この調査で観た風景を案内したい。屋上から札幌市を望む。


江別方面を望む。


江別方面は野幌森林公園の自然が広がる。


札幌方面を望む。見える範囲からは、この塔が見える。札幌からみれば高台となる野幌、ここに聳えるなら本当に広い範囲で見える塔がこの50年間、間違いのなくランドマークとして在った。近年は高層建築も増え死角は増えたとしても、やはりランドマークとして今もあり、既に風景の一部だ。


と言う事で、無事に屋上までを制覇する調査であった。今回は10名以上の専門家の調査、その殆どの参加者が屋上まで登っている。どの人も屋上では笑顔だったのは印象的で、不安のある建築なら誰一人も登っていなかっただろう。笑顔だったのは、塔は無事であると実感できた証に違いない。

誰かの都合で「無かった事」にされる前例にはなって欲しくはない。建築家として記せるのは、この塔は残すべき建築資産であると考える事、現状は残せるだけ十分に健全であると言う事に尽きる。



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