ヒノキ

とある現場を見学させて頂いた。関東で大工をされていた方で北海道に移住された方の現場だった。木材流通は本州に伝を持っているらしく、ヒノキがふんだんに使われる住宅現場だった。

世の中には材料に拘られる人もある。特に大工さんなら、そこに思い入れある人もあるだろうと思う。聞けば材料費は数倍まではせずに調達できるのだそうだ。外材が高価になってしまった今は競争力があるかもしれない。はたして。

ヒノキを使う現場はそうそう見かけない。普段は図面に「ヒノキ無垢」とは書けない。必ず、どこで売ってますか?と質疑がくるだろう。

現場では贅沢にも120×120の柱が立っていた。無垢材故に割れるので、きっちり背割りが成されていて、当然ながらプレカットではなく墨付けて仕口を大工さん自身が加工されていた。そういう現場を今は目にする事が本当に稀になってしまった。


私が強く「ヒノキ」の柾目に拘ったのは、この組子をデザインした時だった。建具職人の親分と一緒した印象的な仕事。堅さの必要な部分は「タモ」材を使ったのだけれど、組子本体は歪まずひねらず素性の良さをと用いた。工場は加工の度に良い香りが漂った。


これは全く違う現場で、小規模の木造があった際の光景。プレカットに出す程でもないと、現場で大工さんが墨を打っていた。「い」「ろ」「は」「に」と通り芯を振っている。ものを造るには様々な方法がある。現在主流のプレカットは現代的で効率的で合理的だ。打合せを間違わなければ適切に材料が加工され運び込まれる。立ち上がるのも早い。

土場で打ち合わせをしたのは、若い頃に何度かしか経験がない。プレカットの打合せは常になるのだけれど、これは技術者との打合せになる。土場でなら、大工の棟梁との打合せになる。嘗ての棟梁は親分で、一筋縄では行かなかった。小僧が何を言う?俺の言う事を聞け!的で、しばしば食らい付いた思い出が蘇る。実は面倒見がよく、自分の仕事に誇りを持っている人が多かった。


・・・見せて頂いた現場で大工さんの手を止めさせて長々と話をさせて頂き過ごした。帰り際に120×120のヒノキの柱の半端材を頂いた。適当な大きさに切ってウイスキーに入れると美味いぞ!と。試してみよう。ともかく、久しぶりに嗅ぐ良い気の香。