建築施工で思う事を記す。

最近とあるハウスメーカーの工事に立ち会う機会があった。担当は若い方だった。そのハウスメーカーは流石に効率良い工事をされていて感心してしまう。そこで思う事があった。鉄筋加工や木造大工はそもそも技量のある職人だ。仕様に合わせて施工するのは、高い技量を求められる事は無く従うだけなので良い。効率とはそういう事、誰でも出来る上に難しい事を排し容易にしたもの故だ。ただ、現場の担当者がこのメーカーに従事してしまうと「建築」を知らずに過ごしてしまうのでないかと気がかりだ。

木造住宅は建築基準法では最も制限の少ない建築に類する。各種保障や保険など特殊なものはあるものの、それらは変遷するもので宿命になる。その場で覚える事の出来る技術はおそらく少ない。疑問の余地なくルールに従う事が求められる事になるだろう。それは実に勿体ないように思う。

せめて若いうちは他のハウスメーカーと交換留学出来れば良いのにと思う。ライバルも実は協調して国内の住宅供給を行う同業者、互いの技術更新継続のためにも交換制度が常になるのなら切磋琢磨出来る環境になるのではと思う。難しいのかな・・・

自分が設計する建築では、施工者は選ぶ。ハウスメーカーや木造住宅に特化した工務店を選ぶ事はまず無い。何故なら技術に不安を覚えるからだ。彼らは基本的に建材メーカーの既製品のコーディネートしかしない。ドア一枚造作するにも建具屋や家具屋と付き合いはなく、管理など出来ようもない程に知識も業者に縁もないので、「出来ません」と平然と言えてしまう業者にある。或いは、見積に参加頂いても初めて尽くしで整理が出来ず項目多数で高価、理解出来ずに下請け業者の言いなりな様が透けて見えてしまう。

ゼネコンでもスーパーはもちろん、道内でも上位企業は会社規模から請ける工事規模は大きい。中堅ゼネコンは面白い。何でも請け負える技術ある担当者と出会う事が多い。

ドア、既製品は化粧シートを貼ったものに過ぎない。ドアには枠がありこれもシート貼。そこに取り付く床と壁の見切りになる巾木も同様にシート貼、これと合う床材も既製品にはあり、それでコーディネートが出来てしまう。建材メーカーのショールームに施主を招いて半日悩んで頂ければ、キッチン、ユニットバス、洗面台、トイレ、ドア、床材・・・全てが揃えてしまう。選んだのは施主お客様なので、ご自身で選んで頂いたオリジナルです!とでも言えてしまう。大手のハウスメーカーならOEMで建材メーカーに自社独自のシートを貼ってオリジナル商品を唄い、自社ショールームで選んで頂くだけで選択肢を狭めてしまう。


無垢の床材を選ぶ。塗装は塗料を各種揃えて現場で試し塗りしてそこから選ぶ。ドアのレバーハンドルは金物メーカーから選ぶ。壁は自分で珪藻土を塗る・・・の様な事は、ハウスメーカーではあり得ない。

【Moai in ny】のクライアントが選んだ無垢の床材を施工業者の土場をお借りして自ら塗装をした事がある。減額調整で塗装は「セルフ」としたので。大変ではあるけれど、施工者が見守る中で実体験出来る事の意義は大きい。後にメンテをする際に、一度経験していれば出来る。した事の無い人には出来ない。

面白かったのはクライアントのご友人がハウスメーカーで同時期に建築されていた事。そのご友人がショールームで床材を選んでいた頃、私のクライアントは土場で必死に塗装されていた。もちろん数種類の試し塗りを見て選んだ塗料で。その話をご友人にされたらしい。そのご友人は「自分で塗る!?」と驚かれたそうだ。まぁ、一般にはそうなるとは思う。

シート貼の既製品は竣工時が最も綺麗だ。傷つけば下地が見えてガッカリする。薄いシートの裏に隠された安価な工業製品が顔を見せればがっかりするには十分だと思う。無垢の床なら、どれほど深い傷を入れてもその下には無垢の木があるのみ。本物の木だ!と思う事はあってもガッカリはしまい。傷付けてがっかりは素直な感情、それが子供の仕業なら、後々まで語れば良いと思う。10年後20年後にこの傷はね、と話が出来る。

高価なマンションでも実情は同じになる。竣工時が最も綺麗であとは傷付き傷むのみ。10年もすればあちこち何かをぶつけた跡が残り、どうにも残念な風景になってしまう。

数年前に築10年を迎えた【Bookshelf】を施工者共々オーナーに招かれた際に、それは強く実感をした。自分達で塗った壁はますます風合をますし、現わしの木部は適度に経年した色合いとなり、他に替えの無い個性を育まれいる光景を実体験する幸運は冥利に尽きる。

既製品をコーディネートして出来たハウスメーカーや住宅専門の工務店の建築なら、10年後に訪ねたいとは思わないだろうな。


ちなみに【Bookshelf】の施工者は住宅を主にする工務店ではあるものの、技術を磨いている会社でもあり信頼を置ける。今でも当時の担当者を私は尊敬しています。
そういう会社もあるのだけれど、一般の方が探し出会えるかと言えば稀なのだと思う。

設計をすれば必ず施工が伴う。そうして実現が出来る。設計監理の際は、どんな要望でも出来る施工者を選ぶ事は必須だ。その意味ではハウスメーカーと出会う機会は稀になるけれど、社内ルールや仕様に限られ伸び代を失いベテラン域に達しても技量を見に付けられない環境はやはり勿体ないと思う。

若い技術者や職人は大変に貴重、今後ますます貴重になる。囲い込んだりせずに技術を伝えて行ける環境をつくれるかどうか問われているのだと思う。