構造との打合せ、その②

 先ず先に、木造とは?木で構築される建築だ。構造物は力の流れを円滑に伝達し持続可能にしたものが建築だ。自重や積載荷重(人が居たり家具があったりと言う重さ)、地震の力や風の力、北海道なら雪の重さなどが建築には発生する。これに耐え得る構造を計算により求める。

木造の構造種別は幾種もある。一般には在来工法と言い、柱と梁で構成する伝統的にして完成された構造や、輸入され今は普及したツーバイ工法の様な枠組壁工法に大別されるだろうか。積載荷重や積雪荷重は垂直荷重であり、地震や風は水平に架構に力が作用する。地震国の日本ではこの水平に働く力が厄介になる。建てた柱は横に力を加えられると倒れてしまう。これにどう抗うか?在来工法では例えば筋交がその役割を果たし、枠組壁工法は壁が担う。枠組壁工法は簡単にはマッチ箱で表現される。昨今ではマッチ箱を知らない世代も多そうだけれど、要は空間を構成する壁天井の6面にしっかりと面材があれば固い箱が作れる。壁がなければ潰れてる。在来工法は6面を線材で構成し、筋交いや壁面材を用いて形状を保つというイメージになる。

金物接合の技術もある今は木造でも鉄骨造(S造)やRC造(鉄筋コンクリート造)で一般的に用いられるラーメン工法も可能だ。柱と梁だけで構成し、壁や筋交に寄らず接合部の剛で耐える事が出来る。但し、木造の金物は特許製品で実に高価だ。壁を無くして大きな空間を必要とする建築なら採用を検討すべきだけれど、壁のある住宅等では過ぎたるものになるだろうか。前述したイメージで言えば、6面を構成する柱や梁の線材の接点が強固に出来ていて歪まずに居られるもの。木造では、鉄や鉄筋、コンクリートを調整して得られる剛性能を金物を使う等して木でも可能にしている。

或いはログハウスのように木を寝かせて積み上げる丸太組工法だったかな?と言うのもある。石やレンガではなく、木があったので木を積んだ!という具合の構造は地震には弱い。太い丸太を使っても自重は大きくなり案外に横に加わる水平力に耐えられない。私自身、過去にはオンネトーのキャンプ場の管理棟を設計した事がある。あと数件のログハウスも。面白いのだけれど、根本的に木の乾燥収縮が大きく気密性等は問えない上に間仕切りにログを使えば所用寸法が大きくなり、なかなか難しい。趣味性を優先順位の上位に置く事の出来る人が選べる構造になるのだと思う。

話は余計に広がり、つい、長くなる。

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本題。構造打合せでは、次いで木造部分の検討に入る。

在来工法は枠組壁工法の様に壁在りきの束縛がなく自由な設計が出来るのだけれど、地震や風の水平力に対抗する「耐力壁」をしっかり計画する必要がある。一般的な住宅規模をハウスメーカーの建てる様なプランでなら間仕切壁は多いし仕様規定に従えば不足はないのだと思う。これは建築基準法でも示されている。計算ではなく指定の仕様に沿えば安全側だという判断だ。この場合は計算は省略し、耐力壁の長さと配置のバランスを検討すれば法的根拠は足るとされる。采配は設計者に委ねられている。

もしも住宅の様な小規模の木造であっても、オープンな空間、形状の具合、吹抜のある空間となれば悩ましくなる。重要なのはその建築が一体となって水平力に対抗出来る事。歪な平面や床の無い吹抜のある場合はそこが歪み、力が加わった際にあちこちが別々に動き出す様ならバラバラになってしまう。一体で動かす仕組みは実に難しい。法的に構造計算を要求されていなくとも設計者は判断しなければならない。

例えば耐力壁には倍率があり、強さの程度を選ぶ事が出来る。筋交いを一本入れる、たすき掛けに入れる、構造用合板を使うなどして選定が出来る。強い力に耐える壁を作れるけれど、強い力が柱や梁に加わる際はそれを円滑に基礎に伝えるために強力な金物を使う事になる。ホールダウン金物など。掛かる力には法的に上限が設定されている。過度に力が集中する事は出来ない。構造計算をすれば仕様規定以上の設定が可能だけれど、木造に使うには怖いくらいの金物が必要になって行く。究極は木造ラーメン構造で、一般的な木では対抗できない強度を金物が担う事になる。その意味では金物工法と呼ぶ方が適当かもしれない。

本来は大工の技があり、木の仕口の仕組みで得ていた構造は何時しか信頼を無くし、今は金物併用が求められる。至らぬ技術の建築が幾多の地震で倒壊した結果、より安全を要求してきたからだろうか。

私は自分の設計において、一体に動くのか不安を覚える設計では最低でも構造設計者にアドバイスを求めている。不安を拭えない際は法的に要求がなくとも構造計算を依頼する。模型も作るので、怪しい建築はそもそも模型でも怪しいし、経験や直感も合わせて磨いておきたい。地震が来た際に、あの建築は拙い!なんて事になったら夜も眠れない。先ずは安全である事が絶対だ。


再び、話は横にそれたけれど、進めている計画は先の記事のその①に続き、その②は『耐力壁』についての打合せとした。大規模な木造でもあり、一部に負担過重を集中させるのではなく均等に耐える壁を配置する具合、使える壁を使いたくない壁との照合を行う。例えば造作となる水廻りの内側には耐水性の面材を使いたい。ここは筋交いを軸間に入れられるけれど、配管等も考慮し、面材を張れない場所もあるので耐力壁化は避けるか最小にしておきたい。2階は勾配天井なりに室内を作るので、天井まで伸びる壁か構造を担わぬ雑壁かも伝える必要がある。

構造設計は数字で示す事の出来る建築表記、意匠設計とは違い構造体で全体を把握する。明快なだけに誤魔化しは出来ない。設計段階で正しく要求をしなければ、やはり現場監理時にどうしようも出来ない事態に遭遇する可能性もあり、ここは慎重な理解共有が欠かせない。

・・・スマン、実はその壁は天井まで延ばさぬ雑壁なんだ。耐力壁として構造を担わせていたと思うけれど、そこを省いた壁のみで検討可能だろうか?少ない?ではここの壁をこちらに移動し基礎まで伝達させるので、これで足りるだろうか?足らせてくれ・・・の様な作業を一枚一枚行ってゆく。要求はしてきたので、どうしても不足する場合は連絡が来る。来ないで欲しいけれど、経験的には大丈夫なはずだ。

難しい設計機会を得る度に勉強になります。今回は初めての構造設計者なのだけれど、意匠への理解はあるし図面読解力も高く、むしろこの壁は使えますか?とまで質疑をしてくれる方、空間への理解を共有できているので打合せは実に有意義で楽しい。