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設計料の見積をしている。とても悩む。
おそらくはきっと、安いと喜ばれる。
でも、安請負してしまうと自分が苦しい。

嘗ては実施図面を描く費用で計画も受けた
事があった。試しに作業時間単価を出して
見ると、アルバイト?という具合だった。
まさかアルバイトに自分の家の設計をお願い
したりするだろうか?
安請負すれば結局、自分自身がその仕事に
時間を割く事が出来なくなってしまう。
浮かんだイメージを確かめる等と言う特に
時間を要する仕事を省く事になってしまう。
・・・その仕事では省かなかったので、
アルバイトの様になってしまったのだった。

事業主体の、効率や合理性が優先される
建築の設計であっても、そういう場合は、
元々工事費は大きく設計料も高価になり、
何とかなりはするものの、それが住宅や
気持ちのある建築なら、やはり安請負は
危険だ。残念な仕事をしたくはない。

設計は、例えば言い換えると、工事費を
どこにどう使うのか?のレシピになる。
十分に計画された設計は工事費を効率的に
効果的に使う事を約束する事が出来る。

例えば予算の厳しい建築を実現するには、
仕様を落とすのが常套で確実、容易だ。
既製品に頼れば工夫の余地も無くなり、
選ぶだけになるので、後は見栄えだけを
考えれば済む・・・かもしれない。
質を落とさずに何とかしようとすれば、
特にローコストでという取り組みの場合、
創意工夫しか術がない。その術を探す
作業には時間を要する。設計料はそこに
使われる事になる。

例えばドア。建具は製作すれば高価、
既製品なら安価なものもある。
プランを考える際に、壁で仕切って良しと
するならドアは増える。これを安価な
既製品を採用すれば済むだろう。
でも、質のあるドアをと考えると高価、
そこでドアを減らす事を考え始める。
安易に間仕切るのではなく、切らずに
空間を文節できれば達成が出来る。
という案を考え出せば大変なのだけれど、
設計とはそこに取り組む方が面白い。
無茶を強いる事も無いとは言わないけれど、
クライアントに理解を頂く為には適切に
空間を理解頂く必要が欠かせない。その
ためにパースや模型でプレゼンテーションを
という流れになる。価値を共有できれば、
そこには他に無い解答が生み出される。
その方が楽しい。

・・・先日訪ねた築9年になる住宅は、
あれは本当にクライアントと共に悩み抜き、
結局、ドアは一枚だけに整理出来た。
家族が増えた今は、将来的に増える可能性は
あるけれど、住まう人の変化に応じて、
それは考えて行けば良いと思う。
ある程度想定しているので、改修改築と
いうレベルではなく、日曜大工でなんとか
出来る範疇だ。子供が個室を要求する時期は
いつか来るかもしれない。その時は、
お小遣いでドアを買え、それをお父さんが
取り付けてやる!という具合までを設計した。

この様な長い道のりに要する時間を惜しめば、
設計は安易になり安価に想定する事が出来る。
ともかく何でも仕切り個室化し、仕様を落とし
規模を大きくすれば良い設計。一度そこに足を
踏み入れれば、創意工夫の余地を削る方へと
予算を使ってしまう設計に後戻りは不可能だ。
時間を掛け理解を深め価値を共有する場合、
創意工夫を前提とする以上、その後の変遷に
おいても様々な可能性を残す事が可能になる。

世の中の住宅の多くは前者で出来上がっている。
家族構成の変化に対応が出来ず、多くの場合は
住まう人数の多い時に合わせ造られる事もあり、
子が育ち出てしまう頃には既に建築が変化に
応じる事が出来なくなり、家の中の半分前後の
空間が使われない部屋となり、寂しいさの
漂う古い家にも見えてしまい・・・寒いとか、
様々理由を付けては見るものの、家の建替えの
理由を実感する事は多い。
子が生まれ育ち巣立つ期間は20年前後、その
期間のみ考えられた住宅では先は見出せない。

話が随分それてしまった?


添付の写真は、まだ寒い頃に網入りガラスを
撮ったもの。結露の光景が外の灯を背にして
綺麗だったので。本文に全く関係無いけれど。


設計は「計画」「実施設計」「監理」の三つ。
そのどれもが何かを売ったり買ったりせずに、
只管時間を使い、考える作業。
もちろん、実施設計は図面を製作するし、
計画では模型やパースを作ったりするけれど、
それらは考えた成果を記すものに過ぎない。
いくら綺麗なパースや模型を作れたとしても、
実際の建築に反映出来なければ無意味だ。

設計料は建設費とは桁違いになる。設計料を
安価にし建設費を増したとしても、良い建築を
手に入れられるとは限らない。前述の様な
手間を惜しむ設計なら、取り返しが付かない。

理解の糸口は実は公正にあって、それは契約。
設計は「委託契約」であり施工は「請負契約」。
請負とは建築行為を請け負うものだけれど、
設計は「委託」になる。設計者はクライアントの
言葉を施工者、現場へ伝える代弁者?に成る。
委託を縮小すれば、それは施工者、現場への
クライアント自身の言葉を絞る事になってしまう。
既製品を選ぶだけの安易な設計なら、それは
施工者にとっては範疇になる。それで十分に
念願と考えるクライアントにとっても十分に
成果であると思う。でも、唯一の答えを探し、
価値を築こうと考えるなら、クライアントの
要望、その言葉を建築の言葉に置き換え、
予算をどう使うかを適正に問いかける設計者を
代弁者として委託する事には意味がある。
意味があると思う方と、私は契約をする。
契約をすれば、どれほど時間を掛けても、
要望を整理し、現場へ伝えるべく取り組む。

今・・・ちょっと中断はしているものの、
光明寺の設計物語はそれを示す一例になると
思う。

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【DOMA/道南の家】の設計物語

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【DOMA/yamanote】の設計物語

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【MoAi in ny】の設計物語


完結出来てはいない物語もあるのですが、
過去に書いた事例を参考に案内を。