夜海

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以前からずっと撮りたいと思っていて、室蘭を訪ねる時は三脚だけは積んでいる。撮ったのはイタンキの浜の夕方遅く。ただ、この日は台風で防風雨の最中だった。道路は砂で覆われ、外に出ると砂が飛んできて痛い。海に向かうのも困難な有様で、明らかに写真を撮るどころではない。そういう時に限って何かのスイッチが入ったらしい。良し!と浜に立つ。で、シャッターを切った。レンズは濡れ、撮れたのはこの一枚だけ。でも、好きな写真が撮れた。

私の好きなロマン派の画家、ターナーの絵にありそうな一枚だ。フリードリッヒなら風の中に人を立たせたかもしれない。こんな強風の最中にも関わらず、沖には漁船が有るらしい。写真中央に映る光点がそれ、見えない水平線の高さを示している。

闇の深遠さ、夕陽の残りと室蘭の工場群の光を微かに映える雲、照り返す僅かな光が波の先端に映える。強風の砂と雨、波音の轟音、既に覆われている闇、その場では観察の余裕も無かったのに写真は静寂にすら見える。


砂浜、海、水平線、空、雲があるだけの風景、陽の沈む直後の全てが交じり合い闇に至る寸前は劇的に見える。それが毎日ある事を知っていたいと思う。