津別峠の夜明け

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故郷の町に日本フィルハーモニー交響楽団が来た事がある。
その時のパンフレットは衝撃的、まるでSF世界だった。
今も大切にしていて、今も持っている人は先ず居ない。
当時、剣道をしていたのだけれど、これを撮ったのは、
その当時の剣道の先生だった。
後に自分の建築を撮って頂く事にもなるのだけれど。

強烈な世界に驚き、これが自分の町の風景と知り驚き、
それが身近な先生が撮られたと知り、ビックリだった。

光、奥行き、空間のスケール、子供の頃に覚えた感覚は
今にも及び続いている。気付いた切欠の一つがこの写真。
出合うべくして出会っている。それが余りに身近に。

当時の津別峠は林道しかなく、ゴツゴツとした石の、
つまりパンク覚悟で夜更けに登る必要がある。
おそらく、三脚を立て、登る陽に高木を合わせ、
撮影されている。携帯電話もない頃に山の中。
熊も鹿も居るだろうし、パンクすれば生死に関わる。
意気込みなしには撮れない写真だ。

写真は、綺麗である事が理想ではない。
そこに物語の写るのがいい。
撮影の労は手前の事情、見せる必要の無い事、
この写真は素直に素晴らしい。その上、
想像すれば労も容易に見て取れる。
熱意が伝わる。写る陽の熱さ程に熱い。
凄い写真に出会っていた。
これ程のスケールのある空間がこの世に
在るのだと知らせてくれた。