【或る町並、駅前プロジェクト】

数年前のプロジェクトを思い出した。しばらく【発想演習】はコンパクトな住宅だった。違う条件を考えたものの、もう少し”広さ”を欲していまったから思い出したのかもしれない。

『町並』は常に意識する。一つの住宅を設計する際にも、その建築が担う町並みを意識しない事はない。寧ろ、町並みの中にどう佇むのかの視点は欠かせない。敷地の中だけで考えたのでは小さな建築になってしまう。空間は広くどこまでも続く。その一部を切り取り住まうに十分な空間へ導けるなら住宅になる。間違うと、敷地の中で自由を謳歌するかのような振る舞い、結果、町並みから浮いて足元の覚束ない浮ついた建築になってしまうかもしれない。条件を敷地内に絞ってしまえばその建築は救う事が不可能になってしまう。現実にはそういう建築が多勢ではあるけれど。

協力設計者として参加したこの【或る町並、駅前プロジェクト】はあるJR路線にある駅前を舞台としている。駅の北側には市外が広がる。多くの場合、線路は町を二分し隔ててしまう。この駅の北側には住宅街が新興として広がるものの、『町』としての一体感や連続性、継続性のない空虚さを感じた。

提案は具体的に至る一歩手前、様々な計画の可能性を示すまでとなっている。
として、出来るだけ現実的な取り組みを考えたので、紹介をしたい。


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敷地がある以上は、実地調査は欠かせない。当然ながら、カメラをもってウロツク私は不審者だったに違いない。最も、休日の昼間、ほぼ人には出会わなかったのだけれど。場所の特定は避け、小さな写真でそれとなくの案内で恐縮。

計画する敷地は特定されている。実地で有り勝ちな偏りは、敷地を外から眺める事に徹する事。当然、それは重要な視点になる。そこに建築するなら、建築がどう見えるか?なのだから。ただし、実際にその建築が使われる際は、その建築から外にどう結びつくかもある。よって、敷地から何が見えるか?は必ず確かめる必要がある。加えて、周辺との関係も確認しておく必要がある。町並みの『並』になるには繋がる必要がある。

広く大きな環境を理解する事から始める。要求はもちろん、敷地の中だけになる。敷地外へ設計者が建築する事は出来ない。ただし、影響を受け、与える事は可能だと信じている。今有る風景を使ってより良い環境を築きたい。築けたなら、それは『町並』を生み出せるかもしれない。一体的な町並を形成出来たなら、新たに建築した建築はその町において欠かせない存在になれるかもしれない。

長くそこに在る事で出来る風景がある。新たに加える建築は、よほど慎重に取り組まなければ既存の風景に溶け込む事は難しい。敷地の中だけで完結する程度の建築でも、写真は綺麗に見せる事は出来ても、実際に訪ねたら浮いた存在でガッカリしてしまう事は避けられない。新築直後から、それまでの風景を思い出させずに馴染みきり、これが無ければならないと思わせるだけの説得力を、果たしてどう得ようか?設計は果てしなく難解になる。

今回は提案のみ、具現ではないので短期間の作業に過ぎない。これが将来において実現の日があるなら、敷地と周辺環境への理解は更に深め、そこに想を得る必要があるだろう。


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図面中央の黄色の範囲が敷地。図面やや上を横切るのは線路、中央は駅になる。土地区画は割りと整然として細かく区分され、住宅が立ち並ぶのが分かる。都心に近い駅、通勤通学や買い物お出掛けにこの駅は使われる。それを前提として広がる町でもある。

駅に向かう人の波、先ずはこの町並みの動線を理解する事から始めた。青い点線が町の中で駅へ向かう動線になる。動線だけを眺めるなら、各部屋から玄関への動線の様だ。


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少し、敷地に寄って眺めてみる。今は原っぱで寒々しい駅前空間、敷地が関与出来るのは半数の動線になる。町並みへ強く作用させる事が出来るだろうと思う。寧ろ、ここを作用させなければ、この駅前空間は空虚を確実にさせてしまうかもしれない。

例えば、線路に隔てられるとしても、この敷地は一等地に違いない。そこに面積効率を優先した箱上の建物が建ってしまったらどうだろう?現実的にそういう場所は数多し。今なら低層部にコンビニとドラッグストアを招く事が出来れば十分なのだろう。上層部はマンションかサービス付高齢者住宅?の類を。「駅直結の立地!」で経済的合理性が支配できると思う。

ただ、それは楽しい町並みではないと思う。便利ではあっても、場所の特性を活かさず経済的特性を利己利用したもの、退屈を覚えさえるに違いない。それは資本に違いないのだけれど、大局的にはその地域全体が「心地よく」ある場所に育つ事のほうが大切だ。素敵な場所なら、代え難い価値が生まれるに違いない。利己が優先される建築に埋め尽くされれば、それが繁華街なら多様になれるかもしれない。そうでは無い場合は退屈な町並みで魅力を失ってしまうかもしれない。

色々と考えてしまう。では、もう少しスケールを上げて敷地を眺め、考える。


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町全体が見えるスケールでは主要な動線しか見えない。近くに寄ると引き込める更に多くの小さな動線を確保出来るのではないかと空想した。単純にそこが『森』なら?と考えてみた。商売のための利己的建築に吸い寄せられるのみなら、それは便利かもしれないけれど魅力があるわけではない。要がなければ近寄らない場所に成り果ててしまう。

要が無くとも吸い寄せられてしまう場所、これが望みだ。

敷地調査、デザイン・サーベイでは歩く人に出会わなかったと記憶している。家はあり、人は在る一定数住まわれているのに、用事のない場所なので人は居ない。出かける際は車で行ってしまうのだろう。それでも、重要な交通拠点の駅の前にある敷地だ。図面の右上に駅が在る。

路面に店舗を設け賑やかに見せかける程度では、実用に耐えない。デザインが良ければ最初は人が興味を持って来てくれるかもしれない。ただ、建築やテナントのデザインの出来る事は限られていて、最初の対面機会は作れるかもしれないけれど、継続的利用を促すには十分ではない。

平たくラーメン屋。建築や内装デザインが素晴らしくとも、それだけなら一回行けば足りてしまう。二度三度行くならやはり、美味しいラーメンが欠かせない。建築に出来る事等限られる。

出来る事は、それでも足を運んでもらえる機会を増やす仕組み、そこにはチャンスがある。何とか敷地の中央に『近道』となる主動線を用意しつつ、あちこちに連絡する動線も用意し、吸い寄せたい。絡め捕る事が出来れば、逃さぬのは味になる。

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という事で、ヴォリューム配置までを提案した。巨大なショッピングセンターを造るには投資も巨大だ。そうではなく、小さな建築の集合でこの敷地を使う事を前提とする。小さな建築の集合なら当然、隙間があちこちに出来る。そのあちこちの隙間を大切に考えるなら、ここを通過する人に、自分なら「ここ」をという路地を作れるはずだ。気付けば寄ってしまっていた!?を誘発したい。店舗毎ではなく、この敷地に来られる方への駐車場を備え、一体的に計画できるなら設計の自由度が格段に増す。

案外に複雑な敷地形状、上手くヴォリュームを作れれば、一見して退屈な箱建築でもなく、巨大なショッピングセンターでもなく、日常を担える『隙間』のある環境が出来るに違いない。ここでは駅から離れた図面左に福祉施設を計画している。全体の高層化は望めないものの、一部には集合住宅があっても良い。

駅前にコンビニがあれば良いかな。引き込めたなら・・・塾、眼鏡店、歯科医院、公共利用のスペース、出来れば日常の食を担えるスーパーがあれば、一体として人の集う場所に出来るだろうか。テナント建築のエントランスには必ず『共用スペース』を設ける事を前提としている。路地上に展開する共用空間、参加型のアートも可能なスペースとし、寒い冬季間でも座れる場所にと思う。寛げる場所に出来るなら、自動販売機ではなく、鯛焼屋かカフェも・・・通学路には違いないので、町にはタムロ出来る場所を用意したい。

タムロする場所、住宅建築ならリビングかな。何LDKで充実した個室を子供に与えたらリビングに寄り付かない!と言うのは多くの人が経験する事だろう。折角家を購入しても家族はバラバラという。設計の妙は、最初の機会を作れる事にある。継続はサービスによる。その機会すら設けられず利己が優先してしまうと住宅内であっても関係はバラバラになってしまう。町並みを考えるなら、とりあえず歩く路地があり、そこにはタムロ出来るスペースがありと、人の行動を合理的に収めずに物語りの生まれる余地を考える事。余地を見出せたなら、そこには『楽しさ』を探せるか、創れるか、喜べるスペースが生み出されるはず。そうあればと願う。