Compact house 考 その⑭ 事例として。

実はこの【Compact house】考は敷地を特定していない事が可能性の限界になっている。設計に置いて敷地は絶対だ。どのような要望も、たとえ資金が潤沢でも、敷地の個性を活かせなれければ無茶になってしまう。無茶な事例は現実に少なくなく、一見して見てはいけないもの見てしまった違和感を覚えてしまう。設計者の意思が勝っては敷地の個性を活かす事は出来ない。敷地の個性を知り活かす事は、それが住宅なら住まうに相応しい環境を得る最大の「理解」になる。正に、それ以上も以下も無い最適を得るのが設計の妙。という事で事例を一つ案内をする。

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【DOMA/Hakodate 】は敷地形状と既存の樹木に大いに難儀したものの、敷地の持つ可能性を理解し、活かすべく取り組んだ。これは当初計画時のスケッチです。実施案に至るにはこの後に何世代も経るものの、敷地と相談をして得た創を具現出来たと思う・・・必至で取り組んだ成果は果たして?容易には行けずとも今はGoogle MAPでストリートが見えるし、しばしば眺めては違和感を覚えないか?直視する。大丈夫だと思えるのは、公の映像からもオーナーが楽しまれていると思われるからだと思う。あり難い。

この住宅は小さな家になる。プランの図式形式で言えば【Type-101】を立体的に構成させたものと言える。立体化ではスキップフロアー構成の複雑な断面を使い実現している。

 

f:id:N-Tanabe:20210124084048j:plain【Type-015】の如くスキップする上に、変形敷地と既存の樹木との関係から、建築はこのパースのように実に不整形になっている。図式は【Type-101】同等になるけれど、実現した住宅は極めて複雑だ。建築時は垂木の一本まで寸法を出し施工に協力をした。かなり果てしない仕事だったな...スケール感はヒューマンなもの、隣接する他の建築が「箱」に見えてしまうくらいに(失礼)、緊張感のある建築が出来ている。敷地内で特に心地よい場所をコート(中庭)としていて、この庭は道路面より1m程度高く、低い木塀を設けるだけで「プライベートな外部空間」を得る事が出来た。この庭と室内LDKを大きな開口で連続させ、比較的小さな住宅にも関わらず室内は拡張されたように広い。心地良い外部の庭を眺め取り込み過ごせる住まい。

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余談になるものの、変形敷地でしかも高低差のある場合、設計は極めて困難になる。高低差を活かす事が難しい事はもちろん、中庭と呼応するLDKを連続する空間に仕立てる為に、従属的な水廻りの設計は最後まで苦労をした。敷地の末端に押し込む必要があり、水廻りの性格上は機能性、合理性をどう達成するかで多くの時間を割いた。このスケッチは決定案に至る前、打合せのために描いたもの。一体、何通りを考えただろう?クライアントの要望を確認しつつ得た実施案は、二度とは得られない成果だと思う。

 

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1階部分をモデルにするとこの具合になる。階段はDOMAにあり、その点では居間中心型の住宅に区分出来ると思う。但し実際は「HALL」を中心にしてプランを組み立てている。玄関からドマを通じてリビングに行くか、ホールを通じてキッチンからリビングへ行くか、回遊が出来る。動線の選択が出来るという事は使い勝手の良さを考えたからの成果。家事動線も他の動線も、来客動線も区別する事が出来るので、生活は清潔感を保つ事が出来る。


【Compact house】の取り組みは敷地を設定しない以上はあくまでシミュレーションのものに過ぎない。けれど、実践の経験があれば、これをモデルとして派生や変遷にも対応が出来る。私だけが住まえる、と言う条件なら何でも可能だけれど、条件は厳しい方が面白い。難しい数学の問題を証明するのに近い。どうせ証明をするのなら、よりシンプルな方が良い。スキップフロアーは机上では難解に見えるけれど実際には案外に受け入れられる確実な方法、コストは掛かるけれど。

ふと思い出し、過去に設計した事例に今始めたシミュレーションで再考を試みた。設計当時よりも今の方が経験値は多く不足を指摘する結果も考えたものの、試してみると不足どころか、必至に最善を尽くしていた事を知る。次の仕事でここまで出来るだろうか?油断すれば後悔するだろうなー

後悔しないためにも、こういうシミュレーションは日々にと思う。