都市規模で考えた、あるプロジェクト その①

あるプロジェクト、比較的大規模な計画だ。
要求はないものの、より深く考えて見たくなった。
先ずは『敷地』を知る事に徹する。
本来は実地調査が最大の機会なのだけれど、
実況を感情抜きに理解する必要もある。
事実を確認するのは・・・作ろう。都市を。

①地図を作る。
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昔は住宅地図帳をスキャンして始めたのだけれど、
今はネットで簡単に地図が手に入る。
手にする地図はズレがあるので信用は出来ない。
それでも、おおよそを把握するには十分だ。

地図サイトを開いて、該当敷地周辺を表示し、
画像をコピーし、Photoshopにペースト、
6枚の画像を集め、一枚に編集をした。
これが制作する都市の全景となる。


②CADに地図を表示する。
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これから作図を始めるのだけれど・・・
あまりの量に躊躇う夜更け。
地図は作図の邪魔にならぬよう青にした。


③先ずは道路から作ろう。

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地図を下図にして道路をなぞる。
北海道の町をトレースする際は何時も思う。
開拓時代の入植者への土地区画、これが
当時の測量技術から一辺540mとなる。
入植以前からある町や、平地の無い町は、
このルールはない。古くからの港町の
街並みはまるで異なる。
あとは、その大区画をどう分割するかで
街並みが決まる。

中央を横切るのは線路、この存在は大きい。
区画に平行に線路は引かれた様子。
バイパスや古い国道は区画に沿わず、
割と自由に走っているようだ。


④線路を描く。

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何だか一気に町に見える気がするな。
鳥瞰で眺めると、町は先ず「河川」、
次いで「線路」、「国道」または
「高速道路」が見えてくる。
建築規模で扱う敷地は、「公園」や
「学校」等の次に見えてくると思う。
住宅規模の敷地は、更に小さい。
この取り組みでは見えないな。


⑤モデル範囲を想定する。

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再現なく作る事は出来ないので、
制作する範囲を想定した。
それでも、広大!


⑥土地を作図する。

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道路、線路を除く場所が土地、
建築可能な範囲となる。
この取り組みでは河川や公園はなし。


⑦既存建築物を作図する。
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道路は直交しない上に幅は様々だ。
作図作業は実に地味地なのだけれど、
本当に根気と勝負するのが建築物の作図。
途中で諦めたくなるし、作図範囲を
狭めたくなってしまう。


⑧既存建築物を描き上げる。
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都市の3D再現において、ここまでが重要だ。
地図より得られる、必要な情報はここまで。
GWの時間余裕を随分消費してしまったな。


モデリング

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実際にはこの範囲に高低差があるはず。
思案の際に、その高低差は影響しないので、
フラットな場所と想定をする。

線路を潜るアンダーパスがあったので、
これは任意に高さを想定してモデリングする。


⑩土地をモデリングする。

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町が見えてくる作業は興奮する。


⑪線路をモデリングする。

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線路敷を製作して、線路を敷いた。
運輸もあるのか、線路は複数で複雑。
どうせ見えないからと、諦めるか?
こういう所は何時も作業時に悩む。
で、結局は作る。見えない所までを
丁寧に作っておくことで精度は上がり、
リアリティーが増す。
自分に都合の良い条件ではなく、
より現実を理解すべく。
と、覚悟して・・・


⑫既存建築をモデリングする。

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苦労して作図した既存建築をモデリングする。
これが次いで最も苦労をした。
実地でこの情報を得るのは極めて困難になる。

そもそも、大雑把ながら全体を把握する事が
このモデル制作の優先になる。実際、下図
そのものの精度が足りていない。
おそらく数年は古いだろうし。

ここではストリートヴューを使った。
航空写真も幾つかを利用し、平面を修正しつつ、
高さを想定し一つ一つを立体化する。
必要なのは街並みのヴォリュームの理解。
既存建築の形状は様々なので、
正確に再現する困難なので、ある程度とした。

何を再現し、どこまで簡略化するか、
ここは経験による。とても悩みはするのだけれど。
線路は遠い将来まで不変だろうと想定出来る。
小さな木造建築は移り変わる。
街並みのシルエットに影響するものや、
何かしらの特徴を持つものは際限をする。

立体化した既存建築はストリートヴューで
一つ一つを確認した・・・果てしなかった。


⑬影を付けて眺めて見る。
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ここまで来れば、如何様にも眺めるられる。
眺めつつ修正を繰り返し、先ずはここまで。


⑭白模型で眺める。

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思索の際は色や形態が邪魔になる事がある。
そういう時は白模型で検証をする。
ヴォリューム周辺模型と言ったところかな。

この取り組みで更に敷地周辺を落とし込む
事があれば、既存建築を含め周辺の精度を
上げて修正を加えるだろうと思う。

出来栄えは、なかなか壮観。


⑮細部を眺める。

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この程度まで出来れば、OK。
敷地近縁で必要になる際は実地調査でかな。


設計は一般的に敷地内で思考も行われてしまう。
街並みなど考慮する事は実に稀だ。けれど、
何を創るか?を考えるなら、敷地の中だけで
完結してしまう設計はあまりに不安になる。


写真では都合良く切り取れるので、竣工写真で
綺麗に見せる事は出来るのだけれど、実際に
訪ねてみると、何だコレ?と言う事は多い。
なるほど!と言う建築に出会うのは実に稀だ。

自分の設計では街並みと呼応出来る様に、
住宅規模でも模索をする。
周辺までを考えるのは条件を厳しくする事、
制約は多くなる上に考える事が圧倒的に増す。
けれど、その甲斐があるものだと思う。

ある地域のモデリング過程を案内した。
このプロジェクトが成就するかどうかは、
これからの事。報告できる機会に至れれば。


その① 『思わず都市を作る』 ←今回です。
その② 『都市3Dモデル!』
その③ 『設計過程』GIFアニメ
その④ 『計画エスキース
その⑤ 『エスキース過程』
その⑥ 『計画案モデル俯瞰』
その⑦ 『計画案の案内』