『縄文時代はいつからか !?』小林謙一/工藤雄一郎 国立歴史民俗博物館[編] 新泉社

あるフォーラムの内容を書籍にした2011年に発行された本を手にしたのは数年前だ。なかなか読み進められずに放置したり、好みの部分だけ読んでみたりしていたものの、春先から適当に読み進めていて、やはり熱い夏場には放置はしたものの、「読み切ろう」と思い立ち、数日前に読み終える事が出来た。本を読み終えた後の達成感は代え難い。何か少しでも「知識」を蓄えた思いがする。気がするだけで直ぐに忘れるのだけれど、こういう時はアウトプットが肝心だと書き出す。

表題の『縄文時代はいつからか !?』、実は定まってはいないのだそうだ。教科書的には『定説』が載るものの研究現場のレベルでは議論の真っ只中にあるようだ。

気候変動と縄文土器出現から時期は 1万6千年~ 1万3千年の何処かではあるとするものの、いつからか?の候補は3つあるらしい。
①土器の出現をもって縄文時代とする1万6千年前
②定着集落や貝塚の出現など文化の認められる 1万1千500年前
縄文土器が全国に広がった~ 1万4千500年前
言わんとする事はわかる。切欠となる道具、「土器」の登場をもってはじまりとするか、日本国内に拡散した頃とするか、文化形成期とするのか。何れにしても遥か昔の事になる。北海道でなら、擦文文化やアイヌ文化も時期の特定は悩ましいに違いない。

この本では旧石器時代の違い(主に石器)、土器のはじまり、定住化、気候変動、植物相、地形・・・など研究現場の様々が記されている。はじまりが何時か?は実はあまり拘りがない。重要なのは過去の遺物の変遷と相関する環境への理解の深まりに違いない。

科学的見地からは気候の解明はかなり興味深い。【炭素14年代法】はしばしば耳にする。実際に何をどう測定し何を確定するのかは知らないけれど、かなり正確に年代を特定できるらしい。それを確実にするためにも幾つか方法がある。一つは安定した地盤に築かれた氷河を柱状に採取し分析する方法、これは氷河を使う。或いは湖底に堆積した土壌の柱状採取から分析する事も可能なのだそうだ。更には年輪から知る事も出来るのだとか。

氷河の研究はここではグリーンランドが取り上げられている。地球規模の変動を大きく捉える事が出来そう。湖底は日本の中での事、この本では野尻湖といい長野県の湖から科学されている。福井か何処かにも良質な柱状資料を採取出来るところがあったと記憶しているのだけれど、思い違いだろうか。氷や土の堆積は毎年の事で崩れずにあるなら、それが年代を追って過去の環境を知る手掛かりになるのだそうだ。そして、年輪。これも面白い。千年杉なら1000年分の情報を持つ事になるようだ。温暖で大きく成長出来る年もあれば寒冷で慎ましく成長する時期も年輪は刻んでいる。火山噴火なり埋もれた樹木には当時が封印されていて、それを相関させ遡り一年単位で理解を得る科学も在るのだと言う。欧州では3万年前まで正確に遡れるのだとか。イメージはわかるけれど、あまりに地道な作業で驚く。これに携わる方は解けないパズルに挑むに似た状況に違いない。故に、こっちの樹木痕とあっちの樹木痕に残る特徴的な年輪形成に類似を見つけ、きっと炭素14や氷河とを比較して確定して一致して数百年を遡る!なんて瞬間があれば、祝杯をあげるのだろうな。

この本はお勧めというわけではない。現在の研究告知の様相ながら個々には分かり良いものの核心に迫るわけでもない。面白い?ではあるけれど理解を良く促してくれる。そのなかで興味を覚えた表があったのでスキャン画像を載せる。載せても良いのかな?分からないけれど、出典は『縄文時代はいつからか !?』です。


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地球の環境はおおよそ10万年の周期で変化をしているのだそうです。先ずは大局的な観点からの観察。温暖は「間氷期」と「氷期」が約10万年周期であるらしく、今は温暖な「間氷期」が1万年程続く極めて稀な時期なのだそうだ。それがこのグラフの上部になる。最も最近の間氷期は13万年前、これがグラフの下方、右に伸びる波部分となる。氷期はとても寒く氷床があちこちに築かれ水が蓄えられ、海水面は今よりも120m以上も低くなるのだそうだ。北海道は樺太経由で陸続きになり、九州は朝鮮半島と近づき大きな河川か運河のようになり、日本海は海ではなく巨大な湖のようになる。

自分の視野の狭さを嘆くのだけれど、年代は数百年が精々の理解の範囲、それを超えると「昔」としか思えない。そこで現金な例えになり申し訳ないのだけれど、正に金額に置き換え理解を試みる。自分の人生は最大でも100歳だ。単位を円に換えると100円になる。自動販売機では足りないけれどスーパーで安売りされていれば缶ジュースが買える!程度が人の人生になる。1000年は1000円、ラーメンならチャーシューをトッピング出来るかもしれない。氷河期の周期約10万年となれば10万円、国内旅行へ行こうか?適当なレンズを手に入れようか?という価格帯だ。地球の環境変化の近々の変動は10万円単位、比較すれば人生は100円単位となる。


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この図は5万円・・・5万年まえからの気候変動の図。上はグリーンランドの氷河より、氷の酸素同位体の変動が縦方向の単位となっている。上方程温暖になる。下は湖底の資料から花粉分析から針葉樹広葉樹の比率のグラフで、相関している事がわかる。グラフの右端が「現代」となり、割と恵まれた温暖な時期なのだとわかる。10万年周期なら近い将来に再び氷期となり冷えると想像が出来る。


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1万4千年前までを切り取り眺める図。1万4千円なら、少し贅沢な食事に行こうかな?という感じだろうか。縄文時代はここからになる。それ以前は石器時代と言う事になる。北海道でも3万年前に人の痕跡を探す事が出来る。グラフの左手は寒いので、海抜は相当に低い。海産物を食料にする住居跡があるのなら、今は遥か海の下にある事になる。このグラフの中央は特に温暖で、これが6000年程前の事になる。これが縄文最盛期で最も栄えた時期とされる。【縄文海進】と言い、海抜は今よりも高い。故にこの頃の縄文遺跡は高台に多く見つかる。海際低地は鉄道や国道、その他の平地は人が住む現代、例えば高速道路をと考えると高台になり、函館への高速道路開発で様々が発掘されている。

初めて縄文海進を知った時は驚いた。今よりも数度気候は温暖だったそうだ。ちなみに摩周湖は7000年前の大噴火で形勢されている。火砕流は近接する屈斜路湖を越えて道東一円に広がったらしい。おそらく道東壊滅だったのだと思う。阿寒国立公園はその後に築かれた新しい環境と言える。

あれ?グラフは紀元後紀元前があるので7千年前とはグラフでは5000年前の事になる。7000円、友達と安価に飲み歩いて2件目程度かな・・・というくらいで噴火焼野原が自然豊かな国立公園にまで成れる。ちなみに駒ケ岳は1000年程新しく噴火していて、森町の遺跡は埋もれたおかげで良質な状態を保ち発掘されている。

縄文最盛期は紀元前6000年前、そこから徐々に寒冷化し紀元前1000年あたりは東北でも稲作が不可能になる程だったらしい。この頃に【精神文化】の発達とされ常用道具ではない飾られた道具や土偶などが多く発掘されている。このグラフでは近々にあった中世の寒気も記されている。当時の人々には理解を超える変動も今は間氷期にある小刻みな波の一部か1万年単位で眺める変化の一部だと理解が出来る。消費税の増減で100円で買えた缶ジュースが110円なのか、という問題だろうか。その差で人々は右往左往してしまう程に弱い。昨今、報道では確定の様に報道される地球温暖化はこのグラフではどの程度の影響を予想しているのだろう?数百年単位の事なら影響したのかどうかすらわかないのかもしれない。数千年単位の環境変化を生み出せる程の力が現代人類にあるのだろうか?6000年前の間氷期の中の特異に近似できる!とも思えないし、それは最低でも数千年先でなければ判別は出来ないのだろうなと思う。

少し前に読んだ『サピエンス全史』で扱ったのは近々の間氷期以降の事になるのかな?一人旅なら割と贅沢に二泊三日の旅程度の換算金額になるだろうか。生物進化を問え出せば10万年=10万円単位では絶滅はあっても、サイクルの早い小動物なら何か可能性はあるかもしれないけれど、随分足りないに違いない。人類はアフリカを出て氷期に一気に陸続きで地球全域に場所を求め、温暖な間氷期に文化を形成した、という理解で良いのだろうか。今ある稀に長い間氷期の温暖な世界で縄文文化は発生し、世界に先んじて土器を手にした人達が日本にいて、今に続いている。

北海道の縄文は個別に考えたくなる独自性を感じるのだけれど、少し大きく、もう少し大きく大局的視点から理解を深めさせてくれる本に出合えたのだと思う。
【縄文探検隊】を企んで既に久しい。敷地=場所の可能性を探る仕事をしている故にやはり、理解する上でとても興味深い。最後のグラフでも右側誤差範囲の社会的要因で良し悪しを判断し価格の変動する土地の価値を鵜呑みに信じたのでは間違えそうだし、考慮しつつも素直な感覚を覚えたい。



仕事を一区切りしたタイミングで本を読み終えたので、一気に記す。思い込みは強く読み難いだろうけれど、時間を置くと鈍るので恥をしのんで今の感情を述べてしまう。