WBC

日本での予選4戦目の先発投手は、漫画でも登場させられない絶対的な存在だった。速球は150kmを越え、140km台の変化球を扱い、ストライクゾーンの四辺際にしかボールを投じない、ボール一つ分の甘さも許さない抜群のコントロールの持ち主だった。漫画なら最後に登場する究極のライバルにしても完璧過ぎ、お色気に弱いとか、目が悪くて昼間しか投げられない等と弱点を与えなければならない程なのに、四番手であった。

既にメジャーで10年最前線で挑み36歳にして6年契約を結ぶ人、打てばホームラン争いをし投じれば二桁勝利をしてしまう揺ぎ無い二刀流の人、164kmの剛速球を武器にパーフェクトゲームをしてしまう人・・・漫画なら読む気も失せるなーと思う。

昨年の三冠王はこの大会では緊張のあまりか不振が続くものの、最も熾烈を極めた準決勝ではサヨナラ安打を決めた上に決勝ではホームランまで・・・出来過ぎだなー

決勝は毎回、エース級が1回だけ全力で投げる具合でメジャーの打者も困っただろう。ツーアウトでランナー1塁3塁から登場してキッチリと抑えてしまう投手、剛球投手ばかりかと思えば坦々と投げ込み打たせ簡単に守備を終わらせてしまう投手もいた。困った時にはここぞと必ず打つ4番が居たり、状況に応じてバラエティー豊かに応える打線もあった。


ボヤっと観戦するには実に楽しませてくれる大会だったように思う。スパースターが思う存分に活躍してしまう!展開に違いない。


日ハムにも居た大谷選手は今やメジャー屈指の野球選手で、プロ入り当初から無理だと言われ続けていたと記憶しているけれど、今では誰一人も否定出来ない飛び抜けた選手になっていた。そんな彼が、おそらくは明らかに格下のチームを相手に吠え、大きなジェスチャーで鼓舞する様は、実はやや違和感を覚えた。一人だけ妙なテンション?と言う具合に。けれど、そこで多くの人が気が付いたのではないかと思う。「楽しめばよいのだ!」と。

ワールドカップでもサッカーは、昨年の決勝しかり常に悲壮感ばかり強く、殺伐と言って良い内容に尽きる。ラグビーは楽しいかな。野球は、ベースボール?は参加する多くの国が、出場する選手達が様々に楽しんでいたように見えた。イチローですら免れなかったプレッシャーは確実にあったはずだけれど、日本のプロ選手達は魅せる事を忘れずに懸命なプレーを通じて喜びを魅せてくれたように思う。

日ハムで投げていた時に既にスケールの違いを実感させたダルビッシュ投手は達観するのではなく没入する様に夢中でこの機会を楽しんでいたように見えた。教えるのではなく、見せる事こそ出来る事に違いない。楽しめ!と伝えてもそれは無理だ。楽しんでいる様を見せられればこそ真似、習う事が出来る。示す事が出来るかどうか、実践では大いに試される。

何れにしてもやはり、漫画や映画なら出来過ぎで微塵も面白くはないだろうな。現実?は素晴らしい。


そこで最後に観る者に思い知らされるのは、「楽しむ」ためにどれだけの努力が必要か?という現実だろうか。観て満足するのでなく参加するなら突き付けられる。一昔前なら漫画でも描けなかったような投手ですら4番手!懸命に楽しみ続けた先にこそ劇的なドラマがあるのかもしれない・・・と夢を見てみたりしつつ。



10年以上も以前の事、日ハム・ダルビッシュの最後の投球は消化試合、次を気にする必要はなく最初から全力だった。西武の4番のおかわり君は毎回、首を横に振りながらトボトボと下がった西武ベンチの空気たるや。この場に居合わせた全ての人が彼のスケールの大きさを見せつけられた。幸運にもベンチ裏から観戦した時の一枚を貼る。


■バット
改めて思うけれど、打者は打てば「バットを投げ捨て走る。」のは妙に感じる。道具を捨てて、というのが野球の肝なのかもしれない。

■打者のスキル
日本の打者は選ばれた人達なのでそうなのだろうけれど、子供の頃に観ていた打者は皆が個性的で真似が出来たと思う。どの打者も、腰の回転に始まりバットの先までが実に綺麗に、駒の様に回る。あの無駄のない回転運動はとても印象がいい。

春になり汚れた地面を履いている最中に箒を振ってみると・・・いや、ギコチナイ。あの回転運動の凄さ、それを投じられたボールに合わせる技術、想像を絶する。

ブログに書いて残して置こうと思うくらいに観戦を楽しんだのだけれど、「勝つ」事よりも「楽しむ」事が優先されていたと思えたからだと思う。勝負に拘りつつも楽しさを失わなかった事は見事だった。学ばせて頂きました。