札幌芸術の森美術館 【 深堀隆介展 水面のゆらぎの中へ 】


撮影が出来るとの事でカメラを構えた。何が何やらカメラが迷う。作品には奥行きがある。それはまるで水の中、深さであり、その奥行きの中で様々に金魚が泳ぐ。カメラは、どの奥行きにある対象を捉えようかと迷う。

表層の樹脂の表面から底にある畳まで、奥行きの中間は様々な深度に泳ぐ金魚なのか、その金魚の影をなのか、本当に水中を覗いているかのようなのに、その水となる樹脂は驚く程に透明なので見え過ぎていて、撮っている、作品を眺めている自分自身が「何処を」眺めているのか混乱してしまい、観ているはずの金魚がどの深さ、位置にいるのかを確かめることが出来ず、不思議な距離感を覚える。



それがコチラに向け集まり泳ぐのだから心揺さぶられてしまう。



通常では水槽の眺め、けれどココでは水の断面そのもの、その小口からも眺める事が出来る。金魚の秘密が見せてくれる。透明な樹脂の塊は何層にもわけて固められていて、その層毎に金魚がアクリル絵具で描かれている。緻密で精緻、驚く程のスケールで作られた巨大な彫刻だ。樹脂の表層=水盤には金魚の群れの作る波まで表現されている。

ひょっとすると、波型の型を作りひっくり返して作品上側から描いたのかもしれない。描かれる金魚は通常とは違い、裏側からか描かれたのかも。3D理解のある今は、その作業を推測できるけれど、これをプリントしたものでなく芸術的作業で得るとなれば、本当に地道な作業を積み重ねる事になるわけで、とんでもない。



人気の作家らしく、会場には若い方が多かった様に思う。とても美しく可愛らしく、それでいて見え過ぎるのに対象となる「金魚」が何処にいるのか分からない不思議は魅力的だった。例えば金魚はヒレ、胴体、顔が階層を持って描き分けられると、視点を動かすと立体的に見える。この感覚は建築にもあり面白い。階層を多くすれば良いわけでなく、解析し、効果を考え、見せたいものが何かを適切に設える事が出来ればこそ。

天井釣りの巨大な彫刻は、その大きさ故に迫力のもので、加えて生前ではなく死後の骨格と言う事もあり印象に強い。ヒレは骨格上、そのように取り付いていないのではとおもうのだけれど、金魚らしく見えてしまう。