とある施設の「食堂」の計画案。

とある施設内に計画された食堂を要望のままに設計をする。しかし、不都合、不便、不具合もあり解決案はないものかと探る。得た解答は実に設計冥利に尽きる一案だったので紹介をしたい。

狭い通路とEVホールに面した「食堂」、仕切られたスペースに「要望」はまとめられていた。綺麗に整理はされていたものの、室内の仕組みを考えると、利用時は外壁側に人が列を成す。「食堂」では良く見る光景に違いない。

この人の列、あまり綺麗ではなく実に落ち着かない。

けれど多くの人は、この事に気が付かず「当然」と思うらしい。実際、ここで食事をするなら騒々しく、あまり良い時間を過ごす事は出来ない。


【要望案 視点①】
人が室内に並ぶ。ちょっと騒々しく落ち着かない。



【解答案 視点①】
人の列を狭い廊下側に、開放的に設ける。狭い廊下は広がり、室内の人の列は外に追いやられ、室内は静けさと落ち着きを取り戻す。

どう? 建築家的な解放でしょ?



【要望案 視点②】
外壁側に人の列。混雑時はもっと混み合う事が予想される。



【解答案 視点②】
人の列を廊下側に開放的に切り離したので、室内は実に穏やか。これなら、落ち着いて食事が出来る。窓際にはカウンターを設け、一人二人ならこちらを、という区分までを考えた。

解答案は要望案に比べ面積は同じで席数は上回る。セルフ形式なのでお盆を取ったり券売機を使ったり、手洗いや各種の案合いなど雑多を整理しているので、室内は整然とする事が出来る。



【解答案】食堂への入り口。
私なら、外から食堂内の混雑が見えたなら外に食べに行くだろうな。落ち着いた室内が見えたなら、待っても良いかな?と思う。食事くらいは落ち着いて楽しみたいし。



【解答案】人の列。
狭い廊下に開放された「人の列」のスペース。ここは賑わいのスペースになる。そのための開放でもあり、広いスペースが出来ている。食事時に何かしらの交流が生まれるのはイイ。ここで手を洗い、食券を購入し、各種案合いを眺め、お盆を取る。

ちなみに【要望案】のココは、長く狭い廊下だ。



【解答案】食堂室内風景。
左手が窓際のカウンター席。右手の低い青い壁の両面に必要な、雑多な様々が収められている。ここが肝心だ。整理せずに室内壁側に並べてしまうと混乱のインテリアになってしまう。整理出来れば小奇麗にもお洒落にも、インテリアは自在だ。



【解答案】窓から室内を眺める。
平面の構成上、食堂の出入り口から最も遠い位置に厨房がある。室内完結型の要望案では人の列は免れない。狭い廊下の先から入室させようとすれば、狭い廊下が混み合い施設利用の支障になってしまう。

ちなみに、窓際のカウンター席は一人二人来客用なので、天井は低く設え落ち着きを与えている。

例えば「住宅」でもLDKをワンルームに仕立てる事は多い。間違うとこの事例の【要望案】のように混乱してしまう。【解答案】は室内を仕切らずに寧ろ廊下と一体化させた連続空間で回遊動線を用いている。その上で必要なアレコレを整理する事で整然とした空間を得ている。

実際は、平面図だけを眺めてこの現実を理解するのは難しい。多くは実際に建て使い始めて感じる解決しようのない問題となる。設計は空間をデザインする。その一例の案内となるだろう。



【解答案】EVホールからの眺め。
まぁ、簡単に製作した即興パースなので紹介は雰囲気だけである。色や照明は、計画が進むならその時に改めて考えるとする。

肝心な事、それは一つのアイディアやイメージを温めると、そこに繋がる空間までもが想像出来る事。空間の様々なシーンが連続して行く。

柱が連続するので、これを使って一体化した空間を考える。EVホールと狭い廊下、食堂までが繋がる。仮に食堂だけが綺麗に出来ても実際に訪ねたなら周囲を見渡す事が出来てしまう。見渡せる範囲、連続して経験する空間の全てに意図を通せたなら素敵だ。



【解答案】エントランス。
と言う事で結局、食堂から始めたアイディアは広範囲に及び、エントランスまで辿り着いた。エントランスホールの案内カウンターやベンチスペース、自動販売機スペースやゴミ箱は雑多な混乱になるので近傍の奥に隠してしまい、整然とした室内を導いてる。

まだ混乱はしているものの、したい事は見えている。後は時間を掛けて洗練を追い求めるのみ。仮に食堂が【要望案】のままなら、これらのイメージは余計なもので、シーンの繋がらないバラバラなものになってしまう。閉鎖的で先は狭い廊下なら?ベンチなど置かずに唯の広いエントランスの方が良いかもしれないし、ベンチではなく自動販売機を並べた方が実用的で未だマシなのかもしれない。さて、どうなるのだろうね。


施設の設計では管理区分があり責任の範囲がある。良い建築を求めるのか、管理し易さを優先するのかはクライアントに一任される。ここが住宅とは大きく違う。施設を管理する人の優先順位は住宅とはおおよそ別になる。人の列を狭い廊下に開放するなら?掃除は?機器等はどう管理?・・・悩むだろうな。

クライアントが実際に住まう人なら、良い建築である事こそが優先される。面積規模は同じでオープンなら清掃は容易、必要なアレコレがまとめて整理されていて、欲しい食事の場所のイメージが廊下やエントランスまで一体的にデザイン出来ていれば、外観までも統一したイメージが出来る。それは理想的なのではと思う。



これは或る設計事例の一案の紹介。即興パースではあるものの、幾つもシーンを製作したので分かり易いのではと思う。如何でしょう?

このレベルの設計内容になるとクライアントを選んでしまう。まぁ実際、「何を言ってるの?」だろうし、使いこなせる勇気ある人に出会えるのは稀だ。思いつきの即興案ではあるのだけれど。個人住宅では親身に寄り添い話をお聞きする時間も設計の時間もあるので、上限は定めずに可能な限りに取り組むのが常の仕事、手は抜かない。設計の妙を実現するための私の仕事は当然、私自身が必死になる。