あるプロポーザル応募案。

同窓の大先輩と、あるプロポーザルに取り組む。結果は獲れなかったんだけれどね。

読みは逆で実直さが問われた様に思われる。拍子の飛んだ案に相乗してしまったのは反省だ。コンセプトの説得力を、私は表現で示そうと試みたのだけれど・・・と言う事は得てして起こり得る。

 

自分の設計は実直で、そこに在る可能性を最大限に引き出す事に努める。見誤ると解を強引に引き出しかねない。無理をしては個人の夢物語でしかなく理解を得難い。そもそも価値の創出は困難でもあり、飛びつきたくなる事も頼られる事もあるのだけれど、設計はマジックではない。自然の様は常に規範、興味は摂理、何故?の問いは自然に向く。そこにある真理を建築に取り込む事は建築を志して以来、変わらない。

プロポーザルへの取り組みは数日に限定をした。期間設定をしなければ、何時までも終われない。恩師に時間厳守を告げられたのは学生の頃だ。どれほど素晴らしい計画案でも、時間を守れなければ『無』だ!と強く教えられ、それ以後、守り抜いている。

学生の頃は時間無視で、評価会の場でも作っていた。まだ作ってるの?と逆に評価されて頂いた賞もあったのだけれど。



普段の自分では取り組まない、例えばシンメトリーの構成に果敢に挑んでみた。エスキースは想像の通りにシンメトリーに捕らわれる展開だった。優先順位の上位にシンメトリーが来るので非常に厄介だ。欲しい空間を求めた結果がシンメトリーという事例は自然の中には溢れているのに、人知で並ぶアイディアがこれまで殆ど無い。

けれど魅力はあって、その構成の美しさを切妻屋根の正面性に求め丹念に探った。用意した時間の過半を費やしてしまう。


どうすれば簡明な切妻屋根の建物を印象的に見せられるか?試みる。初めからモデリングをし、3次元のみならず実際の情景を含め立体的にもエスキースする。

濃色の外壁かと思ってみれば、広い平地に建つ建築は、青い空と緑の大地に在り、理想的には明るい外壁が似合うと思われた。切妻屋根を正面に手間にウッドデッキを設けるなら?小屋組は工夫したい。僅かな操作を加えるだけで印象的でシンプルな佇まいを得られたと思う。

想定敷地では相応しい建築を探し求める。操作した僅かな加減、これが秘訣になる。本当に些細な誤差のような操作ではあるのだけれど、有る無しではパースのレベルでもまるで異なるので面白い。



実は、悩んだのは南面に大きく開けた窓だろうか。南側に設けた大きな開口はパース制作でも難題で、そこだけが明るく周囲が暗くなる。室内の明るさを何が担っているのか?理解している人は実は極めて少ない。開口部には採光、眺望、換気の役割がある。採光により室内の明るさをどう創るか?南に開口を設けたら明るい!と平然と述べる設計者は疑って間違いない。自然を取り込む環境構築はそれほど甘くはない。

と言う状況下で、けれど南側に眺望があるのなら窓は大きく開けたい。

南-北断面となるLDK全景。北側の窓が効く。通風も期待が出来る。面積制限が設けられたプロジェクト、どうすれば広がりを与えられるかを悩み、LDK両側に設けられた個室の仕切りとなる壁は立ち上げて谷間のような空間とするのではなく、外観同様に切妻に施した。LDKには平面的大きさ以上の広がりを導く事が出来る。


平面は無理な要求に挑み、空間が淀み広がる場所を出来るだけ心地良いスペースに還元できるよう設える。



久しぶりに他者との共同設計は有意義で、空間の理解、要求、目標を突き合わせる機会だった。特に近い言葉(ニュアンス)で語る人こそ、大いに理解は異なる。重要なのは、その差異を理解出来る関係を築く事。

クライアントと対話する時、間違えば理解を知る事すらないケースも生じる。建築家である私は、私の理解を伝える必要がある。室内の明るさ、窓の設えをとっても使う言葉が同じでもニュアンスはまるで異なる事の方が多い。迎合するのではなく、出来るだけ正しく伝え、要望を確認し、その上で最良を選びたい。

多くの場合、設計時にニュアンスまで共有する事は出来ない。訓練してきた感性を伝えるのは難しい。共有出来たと思える時は浅い理解のみかもしれない。分り易い価値観の提示もあるのだけれど、一世一代の取り組み違いない建築行為では是非とも挑んで欲しい。要望を明らかにして徹底的に取り組むときにこそ、楽しさが見出せるはず。そのサポートが建築家、設計する者の務め。住んでからの実感が評価を確かにする。

設計時の想像している時点で全てが理解出来てしまっては詰まらないでしょ?理解出来てしまうのなら、そもそも私の仕事は不要だ。そこはプロ、リアルな体感の際に真価を発揮したい。

割とあっさりといした、シンプルな空間構成の住宅計画案は、自分もココになら住まえるという提案に短時間で至れたと思う。ただ、選ばれなかったという事は伝えきれなかったという事、ここは勉強だ。