オリオン座の馬頭星雲

馬頭星雲で検索すれば、かの有名なハッブル宇宙望遠鏡で撮影された不思議な写真が出てくる。これはオリオン座の中にある。オリオン大星雲の上、中央の三ツ星の一端の側に馬頭星雲はある。

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天体を撮る知人から、撮影したRAW(生データ)を頂いた。聞いていたので「星」だと思うけれど、これだけを見れば、失敗写真?と思うに違いない。いざ現像を試みると・・・要は光点と僅かな曇りがあるのみで色彩も乏しい画像なので、これは現像する人毎に見たい写真に仕上がるのだと思う。

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これは私が現像した上で加工を加えた写真。中央右手に馬の頭が見える。光点はオリオン座中央の三ツ星の一つの2等星になる。このサイズだと太陽の如く眩しい。本当に僅かな光を捉える事が星撮影で必要な技術になるらしい。機材はコスト次第なのだそうだ。それでも得られるのは光点と僅かな曇りのみ。先端を求めると情報は僅か、その僅かな明暗が最大の情報となる。手に入れる画像は、思いの在る人のみが創り得る。

 

f:id:N-Tanabe:20200102165105j:plainこれは撮影主が現像した画像。馬の頭を見たかったのだろうなと思う。オリオン座の中央三ツ星の二等星は明るすぎるのだけれど、それに邪魔されてでも馬の頭を見たかったのだと思う。私の現像加工では色彩は彩度を上げるのみに留めた。随分異なる印象がある。始めて星写真を触ったので、私にはハッブル宇宙望遠鏡撮とされる印象が強い。想像力がなければ、どう現像して良いかも分からない受光のデータ。

星が写れば良いのではなく、ここを見たい、見たものを記録したい、それを自分の想像の画にしたい・・・科学的根拠を持って技術的に取り組み得られる情報は圧倒的に少なく、「写真」情報とすれば少なすぎて現像する人毎に様々な像を得る事になる。

得る情報は少なく、しかし確実な素直な情報、その僅かから想像を膨らませ創造を得る。建築の設計もやはり同じ作業になる。同じ敷地、同じ要望、同じ予算でも設計者毎に創られる像は異なる。一緒である事の方が不可能だ。研ぎ澄まし、僅かな情報から導く創造の世界とは、あまりに魅力的だと思う。


最先端の宇宙観測は、例えば重力波天文台だろうか。重力波というノイズ誤差の範囲のような僅かな歪みの波に価値を見出す。誰も未だ見つけては居ない理論のみで存在する想像のブラックホールが合体した際の証拠を見つけてしまった。これまでの観測域を遥かに飛び越え、実存を証明したのみならず、それが合体した証拠を人類に与えてしまった。また、太陽よりも大きな質量のある星が燃え尽きる際に起こす天体ガンマ線バースト後に残る中性子星の合体時の重力波も観測している。理論上にのみ存在していた現象を確認してしまった。それがノイズまみれの中の僅かな波の観測からの事。最早、想像を形にする仕事。それはとても果てしないロマンに違いない。

他分野を知る魅力、その方法や論理、作業過程の様々は実際、とても参考になる。見上げれば冬の今は・・・札幌は曇り空ばかりでなかなか綺麗な冬の空を眺められていないけれど、誰でも探せる冬の正座、オリオン座の中に貼った写真の馬の頭があったりする。

設計では実際、馬の頭を探すよりも様々な状況整理に忙しくなり、つい目的を見失い勝ちにもなる。利便や効率が求められると、それが優先順位の筆頭に成ったりして間違う。求めるのはやはり、楽しさ。馬の頭を見つけた喜びは代え難いに違いない。だって、この夜空に馬の頭があるんだよ?想像を超えた現実、通常では見つける事も出来ない既知の事実、設計でも常に馬の頭を探したい。そして、設計の際に一言「馬頭星雲を見つけた」と発してしみたい。




夜空を撮影する事がある。ISS宇宙ステーションやイリジウム衛星の写真を過去には載せている。暗い夜空をノイズレスで撮るには低感度で長時間露光が必要になる。露光時間が30秒でも、星は流れ動いてしまう。露光時間を短くすれば星は止まる。そのためには高感度が必要になるのだけれど、ノイズとの闘いになる。間違えばノイズか星が見分けが付かなくなる。天体観測は望遠鏡よりもその架台が重要になるのだそうだ。追尾出来れば、露光時間が長くとも星を流れさせずに写す事が出来るのだそうだ。その意味では、貼った写真は誰しもが撮れる写真ではない。大変に貴重なデータを頂きました。