回遊動線【光明寺】

f:id:N-Tanabe:20211220012535g:plain
先に書いた動線のお話、プランの一部分を切り取って案内した図案を比較しようとGIFアニメーションにしてみた。つまり、パラパラ漫画。

徐々に収斂するメタモルフォーゼが見て取れるかと思えば、想像以上にバラッバラであった。箱を決めて間仕切りの調整のみという安易な設計はせず、一つ一つの案はプランそのものがまるで違うので、そうだろうとは予想していたけれど。

一つ一つの案は設計の際に綺麗に収斂する過程が見えたのだと思う。全体の変遷を眺めるなら生みの苦しみが見て取れるだろうか。爆発するようにあっちに伸び、こっちを縮めと胎動するかの如く激しく動き、答えを探した過程がある・・・


f:id:N-Tanabe:20211212194844j:plain

今思えば本当は、竣工記念の「しめた」大会をしたかった。
しめたは鬼ごっことかくれんぼと缶蹴りを合わせたようなゲーム。鬼の場所を決め、10数える間に子は隠れる。見つかるか捕まるかすると鬼の場所に捕らわれる。子は鬼より先にその場所に行き「切れ」ば捕まった子は開放される。鬼が全員を捕まえたら御しまい。

鬼の場所は間違いなく、御本尊のある場所になるだろう。内陣の設置前の建築竣工時なら、しめたのチャンスはあった様に思うのだけれど、御本尊不在の時にお寺は竣工しておらず賑わう気は起こらず、御本尊がおさまった後では内陣を走り回るなど考える事も出来なかった。個人の住宅なら或いはなのだけれど・・・でも、ここで鬼ごっこは楽しいだろうなと思う。実際には柱が何本もあるし、厨房には大きな作業台もあるのでループはより多い。

この最終プランはコンパクトなのはもちろんなのだけれど、勝手の良さにはもう一つ秘密、「回遊する動線がある。本堂へはHALLからは全面、収納からは3つのルートがある。広間はHALLとENTから、HALLとENTは下足室でループを描く事が出来る。人目を避けてアプローチしたり、違う動線でアプローチしたりが出来る。これがとても大切だ。或いは視線を通す事だけでも重要な意味が生じる。

来訪者を迎え本堂に導くならHALLから、サービスには他に3つの動線があるので円滑な運営を助ける事が出来るだろう。ENTから直接アプローチの出来る広間は何か行事が重なる際に重宝をするはずだ。ENT+HALLの動線の選択肢もまたしかり。

それら数多くのループ動線を駆使するなら鬼ごっこの場所に相応しい。一本の動線に部屋が数珠繋ぎでは何も起こらない。良い建築は鬼ごっこが出来る事、これは信念でもある。小規模の住宅で動線確保が難しい場合でも視線の自由だけは必ず確保する。何故なら、楽しい方がやっぱり、楽しいし。

喧嘩をして気まずいお父さんがお母さんに会わずに自室へ行けたり、親の目を盗んで子供が家を脱走してみたり・・・ネガティブにも応えるはずだ。

このお寺なら、子供はおそらく退屈はしない。親は、あちこち行かないの!と叱る場面があるかもしれないけれど、子供が退屈しない建築である事は重要だ。カッコは良いのに退屈な建築よりは遥かに良いだろう。設計において動線計画の難易度は高いものの挑む甲斐がある。長い動線に数珠繋ぎの袋小路プランは考え易いのでデザインの自由度は上がる事もあるけれど、空間が退屈なら子供は直ぐに飽きてします。

路地が縦横にあり通り抜けられる街は楽しい。四面楚歌のように囲われてしまう街並みを歩くのは退屈だ。動線が一本しかなく到達地まで無理やり歩かされるにも、寺社仏閣の参道の如く丁寧に設えられなければ興覚めてしまう。


ここで鬼ごっこの出来ない理由の一つは後門といい、御本尊のおさまる空殿の背後の柱も理由になる。

f:id:N-Tanabe:20211221032039j:plain

金箔を押した柱が聳える。鬼ごっこに夢中になれば誰かは必ず触れるだろう。触れると手痕が残ってしまう。私も仕上がったこの柱に触れた事はない。箔を押す作業は、金が中央舞うという、とんでもない現場だった。まさか私の監理する現場で金が宙を舞うとは!! これは何時か改めて書きたい。