【M邸】住宅の改修 その① 計画。

とある住宅の改修の相談を頂いた。思い入れある住宅とそのご家族・・・家族は増え、成長もされている。当時は私も若かった。

コンパクトでスケール感も良く、仕上の質の高い住宅が改修の舞台となる。要望は「新たなスペース」であった。受験生となる長男と妹、今時期だけは区分できるスペースが欲しい。

先に少し記すと、設計には2択がある。『質』をとるか、『広さ』をとるか。

子供や来客のための部屋が多数ある『広さ』をとった住宅は多いと思う。同じコストで『質』をとるなら規模を抑える必要がある。数多い部屋は後に使わずの間となり、大きな規模は冷暖房の負荷が大きくメンテナンス費用も嵩む。「終の棲家」までを考えるなら、適切な規模でコンパクトである事はメリットとなり、冷暖房コストやメンテナンス費用を抑える上に『質』も求める事が出来る。設計では常に両方を考えた上で、より質の高いプランを提案する。「豊な生活とは?」常に問われる設計課題です。

子供は最初から個室を与えられると、それが常識になる。オープンな空間であっても、「スペース」があるかどうか?が実は重要ではないかと思う。オープンとは言ってもワンルームとは違い、上下階であったり、収納や水廻りを衝立として繋がっているけれど視線は防ぐなどの工夫が出来ると「自分のスーペース」を得る事が可能だ。

この、とある住宅はそういう設計による住宅だ。質感は高く、オープンならがらスペースが各所に設けられた住まいでもある。この場合、最も大きな問題は子供達の成長に伴う、ある一時期になるだろう。例えばそれは「受験」。反抗期や思春期とも重なり、自立を意識する成長期をどうクリアするか?回答は家族毎に様々になる。

「個室を与える」は一つの答えになるけれど万能ではなく、まるで違う方法がある。上下階にオープンな住宅事例では、受験時に籠ると思われた子が、籠らず!を宣言してしまった結果、まさかテレビを見るのも気が引けるとは・・・親が気遣い籠る事になったのは今は笑い話。「個室」とは言っても、頑丈な壁床やドアにより仕切られるのではなく、ロールスクリーン一枚でも状況によっては十分かもしれない。DIYで壁を設け、お年玉でドアを買えば・・・という事もあるだろう。これは住まう御家族の関係に大きく関わらるので、何が必要かを確かめる事はとても重要だ。工夫が出来るなら、過剰は不要で最善を探す事ができるはずだ。

と言う事で、愉快な御家族の住まいでの事、久しぶりにお訪ねてしも変わりはなく、現場調査は極めて楽しい時間でした。御家族の仲の良さは知っていたので、当初から完全な個室化ではなく、「自分のスペース」をどう設けるか?を考える事が出来た。実はこれこそが最も難題に違いない。



【M邸】住宅の改修

どこにスペースを増やそうか?改めて室内を見渡す。何処にも無ければ増築も考えられるけれど、それは条件による。『受験生が受験を過ごす間』となれば、最低限の区別が出来れば足るはずだ。実際、増やしたスペースはその後・・・用が済めばお父さんが狙っていそうであった。もっとも、お母さんのスペースになる可能性も否定出来ない。それは今後の楽しみにしよう。

眺めるのは平面ではなく「空間」。勾配屋根の空間は「LOFT」を考える事が出来た。梁を追加すれば如何様にでもスペースが拡張出来る。今回の改修では、より平易に移動できるスペースが求められ、吹き抜けに床を設けるのが最適との結論に至る。

 


断面を眺めよう。吹き抜けが図面の左手にある。リビングは吹き抜け、そこにスペースが見える。将来は吹き抜けに床を張れば、と言うのは実際に何度も考え提案をした事があるものの、実際に床を設ける計画は初めてだった。

悩むのは、これまでリビングの吹き抜け空間のヴォリュームが遮られ、圧迫感を生じないかどうか。せっかくの広がりある家族の寛ぎの場、これを失っては本末転倒になる。

また、築10年を超えるものの質感高いこの住宅は、壁は珪藻土の塗壁、床は無垢のフローリングと素晴らしく状態が良い。ビニルクロスの壁や化粧フロアの床なら、この機会に張替と惜しくはないかもしれないけれど、将来の撤去の可能性も考えると、健全な壁床を切ったり張ったりするのは痛めるだけで望ましくない。手を加える範囲は最小限とする事も重要と考えた。


『提案』はこうなる。吹き抜けに床を設ける。設ける床レベルは様々に検討した。元々吹き抜けとのコントラストを考え天井を低く抑えたダイニングキッチンがあり、設ける床(リビングの天井)がスケール感を壊さずに済むと予想出来た。一般的な天井高さの、割とずぼらな空間でなら、こうは出来まい。

ロフト上に猫の足場みたいなスペースを設ける案も、断面を眺めると面白そうなのだけれど、これは次の展開としよう。

加工は壁に床枠を設置する簡単な構法とした。リビングから見上げた際にビスやら釘が露わにならない工夫の上で、将来に撤去する事も考慮し、綺麗な壁面を付ける傷は最小限とする。

この「増築工事」はコストも最小限の案。ただし、新たなスペースには壁がない。これはロールスクリーンで遮蔽する事とした。スクリーン一枚で「自分のスペース」と妹さんに考えて頂けるか?これは御家族の判断が欠かせないのだけれど、そこは余り悩まれなかったように思う。布一枚でも籠れるのは健全な家族だと感じた。そういう生活がこれまで、この住まいでは営まれてきたのだ。

改修の難しさ、相談を受けた時の覚悟は対話によってはじめて方針が定まる。この改修プランは誰にでもお勧めするものではないけれど、実に相応しい解答を得たのではないかと思う。


■記事一覧
【M邸】住宅の改修 その① 計画。
【M邸】住宅の改修 その② 工事。