『 光:① 』・・・ヘルシンキはアアルトのカフェより。

ある住宅の設計で『北側ハイサイドライト』を使った。
南ではなく北?しかも高窓?と疑問に思われた当時のクライアントは何度も私に質疑し、その度に私は間違いありませんとお答えさせて頂く。私の確信ある発言、その設計を採用され今に至る。その住宅の現オーナーは彼是15年以上も住まわれ、今では私以上にその窓の効果を知り尽くす。立場が後に逆転するのも設計です。

もちろん私には揺るぎのない確信があり、それは模型でも確認済み、それまでの挑んだ設計経験からも楽しみであったのでした。

説明の際に案合したフィンランドの建築家アルバ・アアルトの建築がある。後年、オーナーがヘルシンキを訪ねた際に、街中にあるココを訪ねられ写真を送って下さったのは何年も前の事。それが今年、再び訪ねたと写真が送られて来る。二度目のアアルトのカフェ、スマホの写真はすっかり進化し、夕暮れ時の室内も綺麗に撮られていた。

私が嘗て訪ねた時は一眼レフカメラを持っていたのだけれど、精々ISO感度400のフィルムを使っていたので、流石に手振れは免れず。自分の参考資料とはなっても公開できるものでなく。


御覧の様に綺麗な写真がヘルシンキから届く幸運。

今ならもっと精緻な設計があっただろうとは思う。今となっては古典であるアアルトの建築は、けれど流石はアアルトであり、その体験の様々が蘇る。天窓のみの自然光採光は『入れ子』となっている。トップライトの下にもガラスの覆いがあり、外の光はガラスを2度透過して屈折し室内に届く。この光が美しい。

初めて訪ねたフィンランドも今の季節、緯度の高い地域なので既に朝10時から夕方3時までしかカメラが使えなかった。だって暗いんだもの。今のカメラならこれだけ明るければ平然と撮れるものの、当時の一眼レフカメラでは如何ともしがたい闇に覆われるのに、室内は明るい奇妙な不思議を体験すればこそ、可能性を知らしめられた。

可能な実例を知った以上は自分でも再現できると確信し、外は暗いのに室内は明るい『光』のデザインを試みる切欠とも言える出会いだった。形態の真似ではなく、方法を学び実践を試みるのが実際の設計のスタートだったかもしれない。

天井の入れ子の天窓の青い光は自然光そのもの。

人工照明も今はLEDが多勢、ダウンライトのような高機能照明は必要な場所を必要なだけ照らす事が出来る。インスタ映えする空間は容易に作れるけれど、自然光で美しい空間を得るには非常に高度なテクニックを要する。この現実は「光」という自然を相手にする建築設計において最大の問の一つになる。安易に人工照明を足して済ませたいとは思わない。ふらりと訪ねた空間が、美しくあって欲しい。