タイの旅、2020年を改めて ⑥ 昼間の、強い影。

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南方地域らしい室内風景ではないかと思う。熱い陽射しが室内に強い影を作り出す光景は印象的だ。暑い地域では、窓は設けないのだと思う。窓が在れば陽射しが熱を室内に招いてします。

窓の目的には「採光」「換気」「眺望」がある。自分が設計する際は室内環境を整えるのに採光は絶対的に気を配る。その概念は地域を違えると役立たない可能性がある事を実感する。空調する昨今の施設は別として、換気が最重要になるのだろう。温暖な地域では建築の「内」か「外」は問題ではなく、”リビングは外”も成立するので窓から風景を眺めるくらいなら外に出てしまうだろう。採光は最低限になるのだと思う。

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訪ねたのは『ワット チェンマン』になる。内陣から外陣を望む。窓が明るいと言う事は熱が入って来る事を意味する。彼等の建築的な問題は通風と取得熱になるに違いない。限定的な窓故に室内は暗い。そのために照明が昼間でも必要になる。あれだけ高くまで陽が登る地域なのに、採光を諦めてでも閉じて暗がりを作る必要があるだけ十分に暑い。室内環境の考えは、地域性が非常に大きい。これを北海道で造ったなら、暗く寒いだけの場所になってしまう。

採光は特殊な技術が必要になる。「窓を開ければ明るい」と考える人が多いだろうと思う。大きな窓があっても室内は明るくなるわけではない。この写真のように明るい窓は室内に「強い影」を落とす。明るさが暗さを引き立てる事になる。私の設計では、その暗さを排除する事を考える。又は、暗さが明るさを引き立てる様にと考える。

北海道で事例を見に行き、実はしばしば窓は多いのに明るさが暗さを引き立たせる薄暗い住宅に出会う事が少なくない。寧ろ、多いと思う。設計の妙がそこにはある。理解しなければ、印象だけの話で現実は真逆の効果を生み出す事があります。

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暑いと思えば、影が恋しくなる。影のある場所を選んで過ごしてしまう。間違っても陽を浴びようとは思わない。陰影のある世界は南国の強烈な日差し故の、日本で経験できる空間とはまるで別のものだと思う。まぁ、夏の京都の尋常ではない暑さは近いのかもしれないけれど、空気の乾燥具合は違う。

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興味深いのは照り返しの効果。僅かに絞った開口から差し込む強い陽射しは、床の仕上を問わず照り返して天井を明るくする。下方から光線がどのお寺でも湯浴意識出来た。上空にある梁は下面が明るい。強すぎる太陽光は一度バウンドした程度では消えない程に強い。

朱色の壁や柱は多く用いられている様に思う。暗がりで良く映えるように思われた。金細工や絵柄の多くは、外では直接光らされていたけれど、室内での照り返しの下方からの光で良く映える。北海道では照り返しの光線を意識して室内を造る事はしない。期待しても天井面までは届かないので、採光を工夫して天井は明るく施す。そういう設計をする。

場所が違えば常識が覆る。遮りようのない暑い陽射しのある世界でなら、自分はどういう設計に挑戦するだろうか?興味深い。知らない光を知る事は実に楽しい。