プロポーション

例え話としては御幣があるかもしれないのだけれど、スケール感等々について記してみたい。スケール感覚は設計する上で絶対に欠く事が出来ない。それは空間の大きさに関わる感覚で、適切なスケールの空間の心地良さは格別だ。身体にフィットする様は、座った事に気付かない椅子、履いている事を意識しない靴のような一体感を生み出す。

空間の大きさを求める設計をしていることはプロフィールにも記している。命題の一つだと強く認識し取り組んでいる。スケール感覚はしかし実は、誰も教えてくれないし、教える事も出来ないスキルになる。つまり、正解がない。都度考え生み出すべきもの。故にマニュアルもないし、ルールも方法論もない。自分の探すしか無い。ではどう求めるか?様々な空間を経験し、自ら方法を模索し、検証し、実践し、そういう経験から今に至る。誰も否定は出来ず、時に安易に「スケール感の良い」と使う人もあるけれど、特別な設計命題に違いない。

スケール感を持って各部を取り組むと、建築は最適なプロポーションを得る事が出来る。例え話、人に例える。手足の長さ、顔の大きさ等を設計するとして、これをスケール感をもって検討しバランスさせ得たプロポーションが、俳優さんや女優さんなら小顔でスタイルの良い像を創り得る。年末年始は俳優さんがテレビにも良く出ていたし、ドラマで見るのとは違い芸人さんなど一般の人に混じると、恐ろしく細く手足は長く顔は小さく、居るだけで雰囲気を醸すので驚いてしまった。だから映えるのかと納得してしまうほどに抜群のプロポーションであった。ドラマで化粧っけなく演じられていた女優さんが実は一般人に混じるとあまりに綺麗で人形さんみたいだったし、十勝を舞台にしたドラマで祖父を演じた方は、あまりにスタイルが良くて宇宙人のようだった。

建築もスケール感を但しプロポーションを得るなら、そういう特別な存在になれる。スタイルが良ければ、化粧せずに普段着でもカッコ良い。建築の普通は工業規格寸法で安価に作られるのだけれど、プロポーションを得る設計ではそこは攻め考える。施工上の都合よりもスケール感を大切にする設計は高価になる。但し、化粧はナチュラルで衣服は普段着でという設計が『ローコスト設計』に該当すると思う。予算があれば、化粧をし着飾り、宝飾を身にまとうかもしれない。

安価を最優先する設計では求めようはないけれど、適切な大きさを求める設計をローコストでいう設計は可能性に溢れている。自分の設計は、振り返るとそういう建築が多い。マンションのエントランスデザイン等は特に高価な石を更に人手を掛けて叩き割肌にした事もある。その割肌の石に見合う左官壁や照明等も含め質を求めたので、本当に高価だった。

高価さは要求によるもの、実用を考えるとやはり適切なスケール感のあるプロポーションは欠かせない。唯の家が女優さんみたいに成れる。あら?と思わず立ち止まる佇まいを実現出来る。ローコストなら、寧ろ慎ましく小気味良いとすら思う。

その域で設計を考える事が出来ると、次なる問題を生じる。あまりにスタイリッシュに施すと、それが住宅の場合は住まう人にも要求するようになる。カッコ良い家なのだからカッコよく住め!という具合に。間違うと悲惨かもしれない。器は良いのに住まう人がね、等となれば悲しい。自分自身、家の中では疲れ果ててゴロリと転がりテレビを見て笑っていたりする。そこは許容して欲しいと願う。すると、俳優さん女優さんに混じっても特別な存在感のあるモデルさんは明らかに宇宙人に見えるし、緩めて普通の人にしても勿体無い。適切に住まう人に合うスケールでプロポーションを整える必要がある。私は設計の際に、クライアントや御家族の人となりを知るべく、出来るだけ普段の日常を見せて頂くし、設計に直接は関係したい様々をお聞きし、理解を深める事から設計を始めます。

例え話を続けると、例えば時代劇で活躍される俳優さんは顔が大きいと思う。表情で語る必要があるドラマでは、よりドラマチックにするには顔が大きく表情豊かな俳優さんが相応しい。
例えば、要望が寅さんなら大いに悩むのだと思う。時代劇並みに表情で語るにはやはり顔は大きな方が良い。でも、可愛らしくと思えば体は小さな方が良さそうで、けれど気質を考えると腕っ節の強さを見せるだけ十分に手は大きく腕は太い方が良い。そして、悲哀のある背中?はてさて難題になる。

綺麗な俳優さんを作るのは案外、簡単ではないけれど迷わないだろう。過ぎればモデルさん的で宇宙人的になるので苦労するし、ただスケールを緩めれば平均的な普通の人になってしまう。要望が適切なら、寅さんのような個性をも設計する事が出来る。

自身の無理のない飾らない生活スタイルを綺麗なプロポーションに仕立てられるならと思う。それが今の自分の出来る、求める設計だ。
10年経っても平然と訪ね、あれこれ見せて頂く事もある。設計時に創造した事が間違いないかを知りたい。当然、10年単位では生活のスタイルは変化をする。子供が生まれ、個室を欲しがる歳になり、家から出る等は10年毎に起きるし、その時に設計した住宅が適切に対応出来るか、出来ない事も想定の上、では何が出来るのかまでフォローをしたい。

日常の全てがスタイリッシュなモデルさん的設計は、本当に?と感じてしまうかもしれない。だらしなさもあるけれどカッコよい惚れっぽい寅さん的な住宅を要望されれば、きっと必死に設計するのだと思う。寅さんは「夕焼け小焼け」や「殿様」が好きです。