オツネントンボ。


随分と冷え込む様になり、秋から冬への季節の移ろいを実感する10月末、陽気な一日を感じた際に予感をしていた。昨年の同じ季節の頃にトンボと出会った事が脳裏に過る。
写真は室内に迷い込んで休憩中のトンボ。窓枠に止まり静かにしていたので被写体になって頂いた。小さなトンボはイトトンボで細い。けれどじっくり眺めたなら、骨格はしっかりとして細いのに筋肉質、そのプロポーションは抜群でモデルの様だ。更には纏う羽は殊更に美しい。羽ばたく際に力の掛かる部分は太く、先端細部は細い構造に透明な膜を張った4枚の羽根、人知では未だに及ばぬ機能美は神々しくすらある。小さいのでカメラを覗けば型ガラスの背景は適度にボケ、北窓を背にした逆光は静かで、ただ撮らされただけの写真が綺麗過ぎて驚かされた。本当に撮らされただけの一枚なのに!ちょっと悔しい。自然は凄いと実感する。

トンボは多くの場合、冬はヤゴで越冬する。ヤゴは水生、淀みの深みの奥で休眠に近い状態を保つのだと思う。理に適う生態に違いない。しかし、このトンボは敢て成虫で越冬する生態を選んだ種、オツネントンボに違いない。

11月になろうかという日に出会うトンボ、不思議だ。

この昆虫は、この頃にも飛べるだけ十分に暖かい陽気の日のある事を知っている。その時に彼等は越冬に適した隙間を探す旅に出る。

小さなトンボなので、木の幹の表皮の隙間でもハマる事ができそうだ。雨雪を避けられる隙間を探す旅。その経路上にココがあったのだと思う。



予感は的中し、陽気なその日、ハエでもハチでもない羽音がアトリエ室内に響いた。トンボだった。間違いなくオツネントンボに違いない。正直を言えば、外で出会っても判別できるとは思われないけれど、これで二度目になる。

窓を閉じて閉じ込めて写真を撮ろうかな?とは思ったものの、この日を逃せば隙間を見つけられず生命の危機に瀕する。閉じ込めるのは可哀そうなので、放っておいた。気が付くと姿は見当たらない。再び旅だったに違いない。トンボの飛翔能力は極めて高く、スリムなイトトンボで小さな種、相当に細かなところを飛び交える。おそらく、草むらの中でも困ることなく飛べるに違いない。

成虫のトンボの目は360度見えそうな大きな複眼を持つ。イトトンボは目が離れて張り出しているので、おそらく本当に周囲全域を関知出来るに違いない。成虫は肉食なので、その眼は動くものに反応するのに特化しているのではないかと思う。同時に身を守るために天敵も察知するはず。加えてその関知能力は草藪でもぶつかることなく自在に飛べるスキルに繋がるのだろう。

僅かに開けた窓からココに入り込み、適当な隙間はないか?と、アトリエをくまなく探索している様子だった。PCの前で手しか動かない私は、きっと関知されていない。

ひょっとすると、アトリエの本の隙間に潜んでいたりして。再会できるかもしれないし、出来ずとも無事でと願う。二年続けて室内で出会うトンボ、今年は撮れなかったけれど、昨年のトンボの子供かもしれない。或いは親戚かもしれない。少なくとも、隙間を探す旅のコース上に在る事は間違いなさそうなので、来年も10月末か11月初めの陽気の良い日は、窓を開けて過ごそうと思う。