オツネントンボ(越年トンボ)?

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昨年11月直前に彷徨いこんで来たトンボ、成虫で越冬する『オツネントンボ』かもしれない。とある本で成虫で越冬する珍しいトンボが居ると知り、図鑑で探せばそれが北海道にも居るとわかった。特徴が乏しく断定は出来ないけれど、おそらく。

多くのトンボは秋には卵を産み、ヤゴとなり年を越す。中には卵で越すものもあるらしい。ところがこの『オツネントンボ』は成虫のまま茂みの奥で冬を越すのだそうだ。この写真の時、冬眠できる場所を探していたのかもしれないな。そうと知っていれば招いたのに、家の中に閉じ込めない様にと追い出してしまった。招いていれば今頃、越冬中のトンボを観察できたのかもしれない。

変温動物のこのトンボ、活動には10℃以上が必要らしい。春暖かくなった頃に産卵し、初夏には羽化するそうだ。40mmに満たない地味なイトトンボ、春先の産卵は生存戦略上重要に違いない。天敵だろう鳥もその時期にトンボは探さぬだろうし、茂みでの天敵となる蜘蛛の巣も未だ無い季節を選ぶ。産卵が秋なら天敵は多いはず。越冬を見越し腹を満たそうと魚や他の大型昆虫が待ち構えているはずだ。春先なら交わせるので時期は正しいように思う。問題は成虫で越冬できるのかだろう。

寒くなれば動けなくなるのでリスクはとても大きい。土に潜れる生物なら良いけれど、どれほど都合良い隙間を見つけても外では確実に凍る。余剰水分が体内にあれば膨張し破裂するだろうから絶乾状態で生き抜かなければならない。生きるか死ぬかのギリギリまで生命活動を縮小し、雪に圧し潰されない場所を探した上で耐え抜かなければならない。


ここ数千年で誕生した種ではないだろうし、数万年か数千万年かを過ごしていたなら、より厳しい氷河期を当然、経験している。寒い時は南方に住んでいたのかもしれない。北海道の固有種ではなさそうなので、今の間氷期の前後に渡って来たのか、そもそも氷河期でも住んでいたのか。

人には一切の無駄を探せない完成されたデザインは、生活まで完成されたスタイルをデザインしている上に極めて柔軟で逞しい。

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人差し指の上に乗せると第一関節を少々超える程度の大きさの小さなトンボだった。近寄って眺めると細く見えた動体は案外に力強いヴォリュームがある。胸は飛翔のための筋肉が盛り上がり、周囲はきっと360°近く眺められる複眼があり、細くともしっかり体を支える足がある。足は特に汚れやすいはずなので毛が生えていて余計な水分や汚れを避ける事が出来る。そして羽、これは本当に美しい。前は強く太い脈が骨格となり、後ろは線のような細い脈が被膜を支える。羽はフラットではなく波打っていて、脈の位置で微妙に山折り谷折りが成されている。細い脈はおそらく柔軟に変化するはずで、飛翔時の様々な要求に応えるのだろう。このトンボは藪の中を非常にゆっくり正確に変幻に飛ぶのだろうな。


・・・メリットを思いついた。

一年サイクルのトンボ、成虫の時期は夏の2ヶ月程度だろうか。生涯の殆どは水中で過ごすヤゴなので、つまり8割以上はヤゴだ。どちらが正体かといえば、ヤゴがトンボなのかもしれない。大型のトンボは数年もヤゴで過ごすので、それこそヤゴが正体に違いない。

しかし、このオツネントンボは逆にヤゴの期間は3ヵ月程度なので、生涯の8割はトンボとして生きる事が出来る。冬場の3ヶ月以上は冬眠するとしても、割とトンボを謳歌できそう。どうせ生まれてくるのなら、飛びたい!という思いから、こういう生活にしたに違いない。と、思う。