国宝、黒曜石とその他の痕跡。


白滝の旧石器時代の黒曜石が正式に国宝に指定されたと報道があった。最古の国宝となるのだそうだ。3万年~1万5千年、その頃に「日本」はなく、住んでいる人に「日本人」という意識もなかったろうし、そもそも北海道は島ではなく樺太と地続きの氷河期の頃の遺物。日本の!と言うよりは人類史において重要に見える。

このスケッチは14年程前に江別の埋蔵文化財センターで描いたもの。本物は白滝の遠軽町埋蔵文化財センターにある。

混じり気のないガラスのような石を加工し作られた当時の道具は既に「作品」のような美しさがある。黒曜石は何処にでもあるわけではない。それが質の良いものとなれば場所は限定される。当時の人は既に地質学的な理解も得ていたのかもしれない。

以前に白滝に在る黒曜石の露頭への冒険を具体的に考えた。当時は大冒険だったに違いないのに、生活必需品として当然のように人はココを訪ねていたのも間違いはないようだ。便利な文明の利器に頼り切った現代人では・・・辿り着けずに山中で迷子になる人が続出しそう。

北海道埋蔵文化財センターは森林公園の江別にある。札幌圏なら近所だ。遠軽町埋蔵文化財センターは道央道白滝ICから直ぐなので、道東へ、道東から行き来する際に1時間でも余裕を持てば容易に見学ができます。

3万年前の人って原始人?

違います。現代人と同じです。遠軽埋蔵文化財センターで見る事の出来る黒曜石の石器、製作の痕跡等の国宝を観れば驚愕するはずです。何も知らずの初見で子供を連れて等是非訪ねてみて欲しい。美術館かな?という凄い石器に出会えます。包丁等の刃物、その素材と考えてみれば、良質な刃物店で包丁を物色するように眺められるかも。



白滝産の黒曜石は旧石器時代のみでなく、縄文時代も重宝されている。道内の市町村の博物館になら間違いなく黒曜石の石器遺物が展示されているので、実は身近に見る事が出来るはず。白滝で得た黒曜石をどう使ったのか?が観察できます。

重要文化財となった遺跡、サロマ湖東岸の「ところ遺跡の館」も見学地としては捨て難い魅力的な場所です。


このスケッチは旧開拓記念館で描いたもの。

縄文時代の初期にバイカル湖近辺から移り来た人達が旧女満別町に根付き築いた『石刃鏃文化』の石器。「素材に拘るグループ」だったらしく、手数少なく最小限の加工で最大限に白滝産の黒曜石を使った人たちで、当時は外国人集団だったのだろうけれど、北海道に強烈な痕跡を残している。

この石器に出会わなければ「石器」への興味は覚えなかったと思う。

彼等は素材を求めて北海道へ辿り着き、白滝で念願の素材を得ている。旧女満別の公共施設の一室に無数の石器が収められていたのだけれど、今は見る事が出来るのだろうか?白滝の黒曜石を最も華麗に使って見せた人達の痕跡にも日の目が当たって欲しい。

刃物は日々の生活に欠かせない。どうせ使うなら?綺麗なものを使いたい。この欲求は実に人間的だと思う。便利で合理的のみではなく、道具への理想や愛着故のもの、彼等と酒を酌み交わして語る機会があれば、さぞ、楽しいだろうなー



北海道で石器が造られるか採取地となった場所は様々らしく、白滝のみではない。例えば今金の美利河もその一つだ。函館へ向かう際は1時間余裕を持てば、国縫ICから15分掛からずの場所にピリカ遺跡がある。当時の光景を偲ぶ丘があり、綺麗な展示施設もある。太古の北海道を知る体験が出来る。

こちらは黒曜石ではなく、頁岩やメノウ等の硬質な石が使われた石器が展示されている。綺麗だなーと思わなければスケッチしよう等とは思わない。何かしらの機能美?この形状を精緻に求めた人の心意気が伝わる。


私の母校、北斗高校は北見にある。当時は北見からスキーバスツアーがあり、それが北大雪スキー場だった。北見近辺の低い山とは違い、果てしなく滑る事の出来る長大なコースがあった。それが白滝村のスキー場で、国体も開かれていたはず。旧友達とは何度も訪ねた。

リフトを3つ乗り継ぐと頂上へ行けるのだけれど、3つ目は谷間を抜けた山岳地帯で、頻繁に吹雪き、強風のためにしばしばリフトが止まった。フードもない一人乗りのリフトで拭き曝されると、-25℃でも「今日は寒いな」程度でコート前を閉じる事無く通学していた高校生が凍えて鼻水垂らす程に過酷な世界だった。なにせ、生えている松は斜めになってしまうほどの環境。

スキーは過酷なものと思っていたら、ニセコを含め近辺のスキー場では経験した事はないな。風を遮るウェアがあれば足る程度に対し、白滝のスキー場は遭難しないのが不思議な程だった。頂上で吹雪かれると直ぐにホワイトアウトし、谷間のコースを見つけるまでは傾斜に沿って滑り出すしかない。まぁ、故にバックカントリーは不可能だったのかもしれない。強風で松が横に生えるような高山、傾斜に逆らって何処かへ行こう!なんて事は考えずとも新雪があり、その雪は極めて良質だった。

ガリガリの北見の若松スキー場で滑るのに対して北大雪スキー場なら、凄くスキーが上手くなった!気がした。


その思い出のスキー場のある白滝は世界的にも貴重な黒曜石の産地。氷河期なら今より10℃前後も気温が低い。縄文時代の中期は3度前後?温暖だったので少しはマシだったのかもしれないけれど、「素材」の為なら人は過酷な場所でも当然の如く行くらしい。今の私ならそこらの河原の石ころで我慢しそうだけれど・・・


【2023年春の縄文探検】
では北大植物園も訪ねた。博物資料も豊富、絶滅してしまったエゾオオカミの剥製もある。ニホンオオカミよりも大きいらしく、実際、大型犬より大きく見える上に、恐竜かな?という犬歯が怖い。山の中で出合い頭に出会うヒグマは脅威だけれど、そもそも人を捕食する生き物ではない。対してオオカミは明らかに肉食な上にイヌ科の動物なのでチームで狩りをする。冬眠もしない。

白滝行きで最も警戒すべきはオオカミだったに違いない。1人だと一頭でも敵わないな。人も集団行動し火も使っていたのかもしれない。石の為に大冒険?『The Lord of the Stones』だったのかな。でも、きっと、当時の人は楽しかったのではないか?と想像している。